研究課題/領域番号 |
18K04840
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
田邉 豊和 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 電気情報学群, 講師 (50509130)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光触媒 / 水分解 / 混合原子価酸化物 / 水素生成 |
研究実績の概要 |
光触媒による太陽光水分解は、「太陽光+水+光触媒」のみで構成されるシンプルかつクリーンなシステムであり、利用価値の高い水素を太陽光によって直接生成できる利点を持つ。これに使用できる光触媒は、太陽光の大部分を占める可視光を吸収(可視光応答性)するための狭いバンドギャップと、水の酸化還元反応(水分解反応)を可能とするバンド端位置を両立することが必要とされる。スズ系混合原子価酸化物の合成および可視光照射下での水素発生に成功した先行研究において、可視光水分解には特定の電子配置 (ns)2,(nd)10による混成軌道の形成が重要であることが分かっている。よって本研究では、 可視光水分解に有用な電子配置を酸化物中に安定に存在できるとされる金属元素、特にアンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)の混合原子価酸化物の合成を試みること、ならびに可視光水分解への有効性を評価することを目的としている。 実施した研究成果として、新規のアンチモン(Sb)系混合原子価酸化物の合成を試み、水熱反応によって高純度のSb混合原子価酸化物を得られる合成条件を新たに見出した。金属イオン源としてSb塩化物、還元剤及びキレート剤としてクエン酸ナトリウムを混ぜた前駆体溶液を用いて、Sb塩化物/キレート剤のモル比が2.5-3.5の範囲で混合原子価酸化物であるSb2O4が結晶性良く高純度で形成することが分かった。また本試料が可視光応答性を有していることも確認した。今後は新規合成によって得られたSb系混合原子価酸化物の光触媒特性を評価していくことで太陽光水分解を実現する新たな材料系の創出につながるものである。また、混合原子価酸化物は、従来の光触媒とは異なる原理で可視光応答性を発現しているため、光触媒だけでなく光機能材料全般の新たな材料設計指針を開拓する意義を含んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度に計画していた新規の混合原子価酸化物の合成において、アンチモンSb系混合原子価酸化物の合成条件を見出したことが重要な成果として挙げられる。特に、Sb塩化物と還元剤及びキレート剤としてクエン酸ナトリウムを混ぜた溶液を前駆体溶液として用いた水熱合成反応によって、前駆体の塩化物/キレート剤比を丹念に精査することで、高純度にSb系混合原子価酸化物を含むサンプルを得られる最適な水熱合成条件を決定することができた。合成したサンプルは結晶性も高く、UV-VIS拡散反射スペクトル測定から可視光応答性を有していることも確認した。 この成果は、Sb系混合原子価酸化物が新たな光触媒として有望な材料系であることを示唆する結果であり、次年度以降に光触媒評価や他の光機能材料への応用の検討に期待が持てる成果である。新規合成したSb系混合原子価酸化物は、従来のドーピング等により可視光応答性を発現させている他の酸化物系光触媒とは異なり、サブナノ空間での混合原子価の共存という新たな原理で可視光応答性を発現しているため、可視光応答性光触媒さらには他の光機能材料における新たな設計指針を開拓している材料である。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度の成果によりSb系混合原子価酸化物の合成に目途がついたことから、同様の電子配置(ns)2,(nd)10を酸化物中のサブナノ空間で安定的に共存できる金属元素Bi,Pbに注目し、Bi,Pb系の混合原子価酸化物の新規合成を試みる。金属イオン源としてBi,Pb塩化物と還元剤及びキレート剤としてクエン酸ナトリウムを混ぜた溶液を用いて水熱合成反応によって新規混合原子価酸化物の合成を試みる。水熱合成条件において前駆体の塩化物/キレート剤比を丹念に精査することで、混合原子価酸化物単相もしくは高割合で混合原子価酸化物相を含むサンプルを得られる最適な水熱合成条件の決定を行う。 また、今年度からは前年度で得られた最適な水熱合成条件で合成した高純度の混合原子価酸化物の光吸収特性、バンド構造、結晶構造、金属イオンの価数評価と光触媒反応である可視光水分解反応の触媒活性を調べる。さらに発展的な展開として、強力な水素発生能を持つ混合原子価酸化物と、高い酸素発生能を持つWO3やBiVO4光触媒とを組み合わせた2段階励起過程によるタンデム型光触媒システム(Z-スキーム)を構築することで高効率の水分解反応が期待できる。そのため2粒子間の電荷移動メディエータにはヨウ素レドックス(IO3-⇔I-)等を用いることでトータルに高効率水分解反応の促進を試みる。また、水分解反応だけでなく強い還元力を生かして二酸化炭素還元反応についても触媒活性の評価を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初のH30年度の計画では、備品として疑似太陽光の線源用にソーラーシュミレーターMS-060AAA(USHIO)を購入予定であったが、実際の交付額において備品購入をすると、他の試薬購入が不十分となる。そこで本研究目的が新規光触媒の合成であることを鑑みて、合成に必要な試薬等の消耗品を優先して購入し、線源用のソーラーシュミレーターの購入を差し控えた。そのため次年度に繰り越す分が生じたものである。繰り越し使用額分と請求した助成金を合わせて、今年度も試薬等の合成に不可欠な消耗品や外部の実験装置使用分を確保したのちに、残額が十分と判断した段階で備品であるソーラーシュミレーターの購入を計画している。
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