研究課題/領域番号 |
18K04844
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
加藤 紀弘 宇都宮大学, 工学部, 教授 (00261818)
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研究分担者 |
奈須野 恵理 宇都宮大学, 工学部, 助教 (80709329)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞間情報伝達機構 / クオラムセンシング / 自己誘導ペプチド / 高分子ミクロスフェア / 水晶振動子マイクロバランス法 |
研究実績の概要 |
本研究では細菌細胞間の情報伝達機構であるクオラムセンシングの阻害技術を検討している。グラム陽性細菌のクオラムセンシングでは、固有の一次構造を有するペプチドが情報伝達シグナルとして利用される。細胞外部へ放出される情報伝達ペプチドの濃度は増殖に伴い増大し、標的遺伝子の発現が活性化する。本研究では、情報伝達ペプチドと高い親和性を有する高分子をスクリーニングし、細胞の外部で情報伝達ペプチドを高分子ミクロスフェアへ捕捉するクオラムセンシング阻害技術を検討した。疎水性部位としてコレステリル基を導入したポリビニルアルコールを有機合成し、水溶液中での粒子径分布を解析した。これを黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusの培養時に共存させ、クオラムセンシングにより誘導されるヘモリジン毒素の溶血活性を試験した。高分子担体へのヘモリジンの捕捉、情報伝達ペプチドの捕捉効果を評価し、合成した高分子担体がヘモリジン活性を抑制する効果を明らかにした。高分子ミクロスフェアを培養初期に添加した培養液中のヘモリジン量と、培養終了後に高分子ミクロスフェアを添加した場合の培養液に残存するヘモリジン量を比較すると、培養初期の添加により明らかにヘモリジン生産量は減少している。そこで、ビオチン修飾したS. aureusのAIP-I情報伝達ペプチドを合成し、水晶振動子マイクロバランス法を用いて高分子ミクロスフェアに捕捉されるAIP-I量を評価した。水晶振動子上の電極表面に自己組織化膜を形成させ、そこにアビジンを固定化した。ビオチン-アビジン結合により試料溶液中のビオチン化AIP-Iを水晶振動子上の修飾電極に捕捉し、共振周波数の減少量をアドミッタンス解析し評価した。この分子特異的な微量センサーを用いて、高分子ミクロスフェアにAIP-Iが捕捉されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラム陽性細菌が生産する情報伝達ペプチドの捕捉担体として疎水基を導入した親水性高分子が自己形成するミクロスフェアを検討した。コレステリル基を導入したポリビニルアルコールを各種合成し、水溶液中での粒子径は動的光散乱法およびレーザー回折/散乱法で、コレステリル基含有量は酵素法で評価した。クオラムセンシングのシグナルとしてAIP-I情報伝達ペプチドを生産する黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusをモデル細菌として、クオラムセンシング依存性の溶血毒素であるヘモリジンの溶血活性を指標に共存させた高分子ミクロスフェアによるヘモリジン活性抑制効果を評価した。溶血試験には精製したヒツジ赤血球を用い、溶出したヘモグロビン量を吸光度測定により定量した。更に、培養液に存在するヘモリジン量は電気泳動法により評価した。その結果、培養液に高分子ミクロスフェアを添加することで、培養上清中のヘモリジン活性が顕著に減少すること、培養液中のヘモリジン量が減少することを明らかにした。AIP-I情報伝達ペプチドの定量には水晶振動子マイクロバランス法の修飾電極を作成し試験した。水晶振動子上の金電極にカルボキシ基末端を有する自己組織化膜を作成し、水溶性カルボジイミドを用いて活性化エステルとし、アビジンを固定化した。一方、N末端をビオチン修飾したAIP-I情報伝達ペプチドを合成し、このAIP-I水溶液へ高分子ミクロスフェアを添加するAIP-I捕捉試験を行った。アビジン-ビオチン結合によりAIP-Iが電極上に捕捉されると水晶振動子の共振周波数は減少する。ネットワークアナライザーを用いたアドミッタンス解析により、高分子ミクロスフェアにAIP-Iペプチドが捕捉されることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、クオラムセンシング機構を有するグラム陽性モデル細菌としてAIP-I情報伝達ペプチドを生産する黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusを対象に、異なる高分子ミクロスフェアによるAIP-Iペプチドの捕捉効果を培養液上清のヘモリジン活性試験および水晶振動子マイクロバランス法により評価し、効果の高い高分子ミクロスフェアをスクリーニングする。水晶振動子マイクロバランス法の金電極上にAIP-I情報伝達ペプチドを直接固定化し、外部添加した高分子ミクロスフェアの捕捉をアドミッタンス解析により追跡することで、AIP-Iペプチドとアフィニティの高い高分子ミクロスフェアを探索する。これらの試験に加え、ペプチドをクオラムセンシング機構のシグナルとするモデル細菌としてう蝕原因菌であるStreptococcus mutansを対象に加え試験する。S. mutansのcom系クオラムセンシングのシグナルである18CSP(SGSLSTFFRLFNRSFTQA)を用いて水晶振動子マイクロバランス法によりコレステリル化ポリビニルアルコール等の高分子ミクロスフェアとの相互作用を定量的に追跡する。S. mutansのクオラムセンシング機構の活性化により可溶性グルカンおよび不溶性グルカンが生産されバイオフィルムが形成される。バイオフィルム形成量を指標に高分子ミクロスフェアによるクオラムセンシング抑制効果を評価する。更に、培養液およびバイオフィルム試料から可溶性、不溶性グルカンの各フラクションを取得しフェノール硫酸法を適用することで単糖の濃度分析を実施し、誘導されたグルカン量を指標とするクオラムセンシング抑制効果の評価を試みることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究は当初の予定どおり進捗しほぼ予定額どおりに使用したが、外部機関に合成委託したペプチド試料の発注額の変動などから端数に残額が生じた。次年度予算と合算して物品費(消耗品に充当)として使用し、予定どおりの研究を遂行する計画である。
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