本研究では、グラム陽性細菌の細胞間情報伝達機構クオラムセンシング(QS)の情報伝達を担う自己誘導ペプチドと親和性を有する素材を明らかにし、QSの人為的な阻害による病原性因子の発現抑制効果を明らかにした。 う蝕の原因となるミュータンス連鎖球菌Streptococcus mutansのcomDE系QS機構の活性化制御にシクロデキストリン(CD)誘導体が有効であることを見出した。S. mutansはアミノ酸18残基の18CSPを自己誘導ペプチドとするQSの活性化によりsmbA、smbB遺伝子の発現を誘導しバクテリオシンを生産する。バクテリオシンによるStreptococcus属細菌の増殖阻害効果を試験すると、γ-CDあるいはα-CDに高い効果が観測された。18CSPを固定化した水晶振動子マイクロバランス法(QCM)のセンサー電極を作製しCDとの親和性を評価すると、親和性が高い順にγ-CD、α-CD、β-CDとなることが明らかとなった。次に18CSPの膜受容体ComDにおいて、18CSPとの結合活性が期待される細胞外LoopCペプチド鎖を合成しQCMセンサー電極に固定化した。LoopCぺプチドとCDの親和性は高い順にα-CD、γ-CD、β-CDとなることが明らかとなった。これらの結果は、γ-CDは主に18CSPとの複合体形成によりQSを抑制することを示す。これに対しα-CDは膜受容体ComDと相互作用し、18CSPの結合を阻止するブロッカーとして主に作用しQS機構を抑制することを示している。 本研究では、グラム陽性細菌が生産する環状構造の自己誘導ペプチドAIP (S. aureus)及び直鎖構造の自己誘導ペプチド18CSP(S. mutans)のどちらにおいても、培地に添加した機能性分子によりこれらを捕捉しQSを抑制可能であること、病原性因子の発現を人為的に抑制できることを示した。
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