研究課題/領域番号 |
18K04850
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
戸谷 吉博 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (70582162)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酵素比活性 / 反応速度論モデル / 代謝経路 / 大腸菌 / 代謝工学 |
研究実績の概要 |
微生物を利用した有用化合物生産では、生産速度向上のための代謝フラックスの強化が必要である。代謝経路の律速反応を特定には、経路中の酵素の比活性Vmax (酵素が触媒しうる最大の反応速度) の情報が重要な手がかりとなる。そこで、一連の代謝経路に含まれる複数酵素のVmaxを同時に測定するための技術を開発した。本手法は、細胞から抽出した粗酵素液を用いて試験管内で一連の代謝経路を駆動し、中間代謝物の濃度時系列を測定する。対象経路の反応速度論モデルを用いて、実測した中間代謝物の濃度時系列を説明するように、各酵素反応のVmaxの値を最適化計算により求める。これまでに、粗酵素液を使って解糖系の一連の反応を駆動し、中間代謝物の時系列データを取得するための条件を検討してきた。また、この試験管内での反応を再現するためのモデル構築に取り組んできた。 本年度は、解糖系の中間代謝物の時系列データと反応速度論モデルを利用して、Vmax値を最適化計算によって求める方法を検討した。定常期における大腸菌から得た粗酵素液を用いた実験の結果、フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ (FBA) のVmax値が一番小さかった。この反応が律速であることを確認するため、解糖系のそれぞれの酵素を過剰発現した大腸菌を培養し、増殖停止期におけるグルコースの比消費速度を評価した。解糖系に関する1遺伝子過剰発現株の中でFBA過剰発現株のグルコース比消費速度が最大であり、Vmax値に基づく律速段階の予測が妥当であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、試験管内における解析したい代謝経路の駆動、中間代謝物の濃度時系列の測定、実測データを説明するように反応速度論モデルのVmax値の推定という一連の解析システムを構築した。本年度は大腸菌の粗酵素液を使った実験によって取得した実データを利用して、解糖系の各酵素のVmax値を推定した。また、Vmax値から予測した律速段階について、解糖系の各ステップを触媒する酵素の過剰発現株を使った培養実験を行い、検証することができた。本研究の応用として、フェノール添加時の大腸菌の中枢代謝について、フラックス分布を推定した。また、一部の反応について酵素活性を測定し、フェノールの添加が酵素活性に影響を及ぼすことを確認した。また、解析対象経路を拡張するため、TCA回路の一部分について、試験管内における反応系の構築に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発した複数酵素Vmaxの測定手法を用いて応用例を解析し、手法の適用可能範囲を明らかにする。まず、大腸菌の粗酵素液を用いて、フェノール添加時の中枢代謝酵素のVmaxの変化を推定し、すでに測定したフラックス分布や一部の酵素活性の結果と比較することで本手法の有用性を実証する。また、有用物質を生産する大腸菌株に本手法を適用する。得られたVmaxの情報を使って、代謝制御解析を実施してフラックスコントロール係数を求め、代謝経路中の律速段階を予測する。プロモーターやリボソーム結合配列の改変などにより、標的反応を触媒する酵素量を増やし、目的化合物の生産性が向上するか検証する。
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