研究課題
多くの細菌は細胞膜あるいは外膜に核酸やタンパク質などを包接し、メンブランベシクル(MV)として放出する。MVは細菌間の情報伝達を介するのみならず、宿主に多様な生理活性をもたらす。我々は、乳酸菌Latilactobacillus(旧属名 Lactobacillus)sakei NBRC 15893がMVを産生し、宿主の腸管免疫系を活性化して免疫グロブリンA(IgA)産生を増強することを見出した。本研究では、L. sakei由来MVを安全性の高い粘膜ワクチンのアジュバント(免疫賦活剤)に応用することを目指し、MVが免疫賦活をもたらすメカニズムを解明するとともに、乳酸菌にMVを効率的に産生させる条件を検討した。粘膜ワクチンがターゲットとする粘膜面での感染防御にはIgAが重要な役割を果たす。そこで、粘膜免疫系のリンパ組織である小腸パイエル板から分離したパイエル板細胞を用いて、L. sakei由来MVがIgA産生を増強するメカニズムを解析した。MVはToll様受容体2を介して樹状細胞を活性化し、一酸化窒素やレチノイン酸、IL-6の産生を誘導することで、B細胞のIgAクラススイッチ組換えおよび抗体産生細胞への分化を促進することを明らかにした。また、マウスの腸管に投与したMVが腸上皮細胞を介してパイエル板内に取り込まれることを明らかにし、MVがリンパ組織内の免疫細胞に直接作用することを示した。最終年度は、乳酸菌に効率的にMVを産生させるために、培養時間や温度、浸透圧などの培養条件を検討し、乳酸菌のMV産生を誘導するいくつかの因子を推定した。さらに、MVの産生条件が免疫賦活作用に及ぼす影響についても調べることで、MVの「量」だけではなく「質」についても考慮する必要があることを明らかにした。
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