研究課題/領域番号 |
18K04862
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山田 哲弘 千葉大学, 教育学部, 教授 (40182547)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トリスヒドロキシメチルアミノメタン / ナノコーティング / 防錆作用 / コハクイミドエステル / 水素結合 / オリゴロイシン / ポリグリシンII構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,糖基とオリゴグリシン基を併せもつ両親媒性分子を用い,二次元面内における分子の稠密配列形成とその構造固定をオリゴグリシン基間に形成されるポリグリシン(PG)Ⅱ構造で達成するとともに,この二次元分子薄膜を糖基の水酸基で鉄表面に吸着させることで,分子1層でありながら高い防食効果を有する新規なコーティング(ナノコーティング)剤を開発することが目的であった。初年度に目標とする分子を合成し,赤外スペクトルからそのキャスト膜がPGII構造を形成していることを確認したので,この分子を用いた鉄材の防錆効果を検討したが,以前に防錆効果を検討したオリゴロイシン基を有する糖型両親媒性分子よりも防錆効果は劣っていた。 本年度はその理由を考察し,嵩高い糖基の利用を断念し,コンパクトでありながら複数の水酸基を有するトリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)を親水性頭部とする両親媒性分子を基本骨格として採用することにした。すでにオリゴグリシン基よりもオリゴロイシン基が防錆能に優れていることを見いだしているので,THAMを導入する方法が確立できればオリゴロイシン基と組み合わせて防錆能に優れた新しい分子を合成することが可能となる。そこで,まずTHAMの導入方法を確立するために,単純な構造の長鎖脂肪酸を用いて各種の合成法を検討した結果,N-ヒドロキシコハクイミドとの反応で得た活性エステルとTHAMの反応させればTHAMを高収率で導入することを見いだした。この方法はロイシン1残基を含む長鎖脂肪酸を原料にした場合でも有効であったことから,オリゴロイシン基を含む脂肪酸との反応に道が開かれた(令和2年度の計画)。一方,合成に成功した分子を鉄材にキャストして防錆効果を検証したところ,酸性雰囲気下で4日間金属光沢を維持する防錆効果が見られた。研究者がこれまで試みた中で最も性能に優れたコーティング剤となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初合成を計画していた,糖基とオリゴグリシン基を併せもつ分子では防錆という目標を達成できなかった。しかし,原因を考察することで,鉄材に対する吸着部位とする親水性頭部基は複数の水酸基を有しながらも嵩高くない原子団でなければならないことが明らかとなり,分子構造の再設計が必要であることがわかった。それに基づいて合成した分子は現段階ではペプチド基を持たないことから最終的に合成を目的とする分子ではないにもかかわらず,鉄材の防錆に対して著しい防錆効果を発揮した。また,本年度合成した分子については,これまで合成法が確立されていなかったが,N-ヒドロキシコハクイミドの活性エステルを利用することで合成法を確立できた。活性エステルと反応させる分子はメタノールにしか溶解しないが,溶媒をメタノールのみにすると活性エステルがメチルエステルを生じて失われてしまう。そこでメタノールを最小量にするとともにDMFを主溶媒にして固-液反応を低温で行うと,収率よくアミドを生成することも見いだした。これにより,最終目標である分子の合成に目処をつけることができた。
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今後の研究の推進方策 |
N-ヒドロキシコハクイミドの活性エステルとトリスヒドロキシアミノメタン(THAM)を反応させることで,THAMを親水性頭部基とする両親媒性分子の合成法が確立できた。さらに本法の場合,THAMはメタノールにしか溶解しないがメタノールをごく少量用いればDMFを主溶媒にして固-液反応を低温で行い,収率よくアミドを生成する特徴を持つ。そのため,オリゴペプチド基を有する広範な分子に対して有効で,無水コハク酸をペプチド末端のアミノ基で開環してカルボキシ基を新たな末端とすれば,例外なくトリスヒドロキシメチルアミノメタンのアミノ基とカルボキシ基の間にアミド結合を形成させることができる。今後は,β-シート構造が側鎖間でファスナーのような噛み合いを起こして構造の固定化が起こるオリゴロイシン基を利用してさらなる防錆作用の向上を目指す。具体的には,トリロイシンのアルキルエステルを原料とし,無水コハク酸を開環して末端をカルボキシ基とした長鎖分子を合成した後,上述の方法でN-ヒドロキシコハクイミドエステルを合成し,THAMと反応させて目的とする分子を得る。この分子の溶液を調製して鉄基材を浸漬した場合,および単純にキャストした場合の二つについて,酸性雰囲気下での防錆効果を検討する予定である。
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