研究課題/領域番号 |
18K04863
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
吉田 絵里 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60263175)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 人工細胞膜モデル / 高分子ベシクル / 出芽 / 神経細胞 / 両親媒性ブロック共重合体 / 自己組織化 / 精密リビングラジカル重合 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、本研究計画の最終項目である「⑤単細胞生物の増殖の1形態である『出芽分裂』により高分子ベシクルの増殖が起こるか」を調べた。前年度までの研究で、高分子ベシクル膜で出芽分裂が起こることは実験的に証明することができたので、令和3年度はその発展として、生体内の情報伝達に重要な役割を果たしている神経細胞体からの出芽による軸索と樹状突起の形成と伸長について、高分子ベシクルを神経細胞の人工細胞膜モデルとして用いた。軸索や樹状突起の形成および伸長は、神経細胞膜に脂質分子が常に供給されることにより起こる。この現象を高分子ベシクルで発現させるために、ベシクルにその膜成分である両親媒性ジブロック共重合体を供給し、それによってベシクル膜上で出芽し突起構造が形成されるかを調べた。ポリメタクリル酸(PMA)を親水セグメントに、メタクリル酸メチル(MMA)とメタクリル酸(MA)のランダム共重合体を疎水セグメントにもつ両親媒性ジブロック共重合体を構成単位とする、直径約11.7μmの球状の高分子ベシクル存在下、重合制御剤である4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルで生長末端をキャップしたPMAを開始剤として、MMAとMAのランダム共重合を光精密リビングラジカル重合によりメタノール水溶液中、室温で行った。その結果、重合によって生成した共重合体が高分子ベシクル膜に吸収され、その出芽により多数の突起構造がベシクル膜上に形成されたことが走査型電子顕微鏡観察により確認された。この多数の突起は重合の進行とともに数本の太い突起構造に形態変化しながら伸長し、重合後期には突起構造上で分岐が起こることもわかった。これらの突起構造の形成メカニズムは、神経細胞の軸索や樹状突起のそれとよく似ていることが明らかになった。これらの研究成果は論文に発表し、国際的な学術誌に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの研究で、本研究計画の最終項目である「⑤単細胞生物の増殖の1形態である『出芽分裂』により高分子ベシクルの増殖が起こるか」について、高分子ベシクルで増殖が起こることを実験的に証明することができている。そこで、令和3年度は当初計画よりもより複雑な構造とメカニズムをもつ神経細胞の出芽について、高分子ベシクルを神経細胞膜モデルに用いた研究に展開した。このように、研究成果の観点からは、これまでの進捗状況は「(1)当初の計画以上に進展している」といえる。一方で、研究成果の公開の点では、海外で開催された国際学会への参加が、コロナウィルスの感染拡大防止対策により各国で入国制限が課せられたため、予定していた海外渡航や国際学会での研究発表を行うことができなかった。したがって、研究成果の公開という観点からは、本研究が計画通りに進行したとはいい難い。これらのことを総合的に判断し、現在までの進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究計画で明らかにする項目はほぼ計画通りに実行することができている。今後は本研究課題の核心的な問いである「生体由来でない非天然の化合物を用いて、生命を人工的につくり出すことは可能か?」に、直接的に答え得る研究を展開する。その第1として、核を持たず比較的単純な構造をもつ細胞である赤血球について、高分子ベシクルがその人工細胞モデルになり得るかを調べる。特に、刺激に応答して変化する赤血球のさまざまな形態を、高分子ベシクルでその刺激応答挙動を通してつくり出すことができるかを検討する。第2に、細胞の代謝で重要な役割を果たしているオートファジーの機構を、高分子ベシクルを用いて高分子合成化学の立場から解明する。さらに、第3として、高分子ベシクルを従来の脂質二重層モデルからタンパク質モデルに発展させ、非天然の合成高分子から人工生命を創製できる可能性を実験的に証明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる要因は、コロナウィルスの感染拡大の速度は減少してきたものの未だ完全には収束せず、その防止対策として各国の入国の制限や対面型の国際学会の開催が見送られたため、海外で開催された国際学会に渡航して研究発表を行うことができず、その海外渡航の旅費分が未使用額として生じたことである。現在、ワクチン接種の増加とともに感染が抑制され始め、それにともなって対面型の国際学会が徐々に再開しつつある。令和4年度は、海外渡航による国際学会の参加に加え、渡航が制限された場合にはバーチャルでの研究発表による国際学会への参加を予定している。これらの旅費および国際学会参加費用に研究費を使用する。
|