最終年度の研究成果: 最終年度の令和4年度は、本研究課題の核心的な問いである「生体由来でない非天然の化合物を用いて生命を人工的につくり出すことは可能か?」に、直接答える研究の第1として、高分子ジャイアントベシクル(GV)が赤血球の人工細胞モデルとして有用であることを実験的に明らかにした。赤血球は核を持たず比較的単純な構造の細胞で、温度上昇によって通常の両凹の円盤状の構造がさまざまな形態に変化する。低濃度では細胞膜の一部が微小球体となって融離し、赤血球自身はウニ状の形態に変化する。一方、高濃度ではknizocyteやacanthocyteなどの中間体を経由してカップ状に形態変化することが知られている。赤血球のこれらの形態を、両親媒性ジブロック共重合体であるポリメタクリル酸-block-ポリ(メタクリル酸n-ブチル-random-メタクリル酸)を構成単位とする高分子GVに発現させることに成功した。研究の第2には、細胞の代謝として重要なオートファジーについて、その初期段階で形成されオートファジーを誘導する、カップ状の融離膜の形態と形成メカニズムを、高分子GVでつくり出し、融離膜の形成メカニズムを合成化学的な見地から明らかにした。
研究期間全体の研究成果: 本研究は、両親媒性ジブロック共重合体の分子設計を通して、その集合体である高分子GVに細胞膜と同様の形態や現象を発現させることによって、人工的に合成した無生物から人工生命を創製できる可能性の糸口を実験的に示すことができた。特に、赤血球やオートファジー融離膜の人工生体膜モデルとしての研究成果は、本研究課題の当初計画以上の成果であり、生体膜研究の学術分野を大きく発展させた。
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