研究課題/領域番号 |
18K04873
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
江上 喜幸 北海道大学, 工学研究院, 助教 (20397631)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グラフェン / 化学修飾 / 第一原理計算 / 電子輸送 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、電流の持つ軌道角運動量を利用して原子層状物質におけるバレー偏極の制御可能性について研究を進めている。当該年度においては、そのための基礎研究として、原子層状物質における電流の空間経路を制御法について第一原理計算に基づく数値シミュレーションによる解析を進めた。 これまでに、グラフェンを対象として、表面の化学修飾によって電子輸送特性、および電子の空間輸送経路の制御可能性について研究を行った。ここでは、フッ素をグラフェンの両面に吸着させることで、フェルミ準位近傍での電子輸送に支配的なπ軌道を終端化することで、空間輸送経路を制御することを考えた。また、吸着原子の配置や密度と電子透過率の相関関係についても解析を行った。 先行研究として、フッ素吸着によってボトルネック構造を作成することで、物理的に切断することなく、グラフェンナノリボンと同様の電子構造が見られることが知られている。本研究では、まず、ジグザグの原子列を一つだけ残してフッ素を吸着させ、原子鎖構造を作製し、原子鎖部分を選択的に電子が透過できるかを確認した。シミュレーションの結果、フッ素化によって電子輸送が効率的に阻害され、原子鎖部分を電子が輸送していく様子が観察できた。また、中空に担持した原子鎖構造における数値シミュレーションの結果と比較を行った。その結果、中空担持モデルと同様に、原子鎖の長さによってコンダクタンスの振動現象が観察されることがわかった。化学修飾による輸送電子の空間経路制御可能性に関する知見をさらに深めるため、さらなる解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、原子層状物質としてグラフェンを対象として、化学修飾によって電子状態に変化を加え、電流経路の制御可能性について重要な知見を得ることができた。グラフェン表面のフッ素修飾によって、ボトルネック構造を作製することにより、原子鎖の様に、電子が流れることができる領域を制御することが可能であることが分かった。また、原子鎖状の単純な構造を対象とした解析をしたことよって、議論が明快になり、輸送電子の波動関数が持つ波数や対称性が、その輸送特性を議論する上で非常に重要なファクターとなることを明らかにした。今後、より複雑な系を対象とした解析を行う上で、これらの知見は非常に有用となると考える。 また、次のステップとして、吸着フッ素の配置を制御することにより、湾曲した空間経路を形成する研究を進めており、電流の空間経路の曲率とバレー偏極の大きさの相関を明らかにすることを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、電流の空間経路を制御するための手段として、原子層状物質の幾何構造を機械的、物理的に変化させる、あるいは、原子の吸着、置換、欠陥などの導入によって化学的に変化させることを考えている。当該年度の研究成果として、グラフェン表面の化学修飾によって電子の空間輸送経路を制御できることが示唆された。次年度以降は、化学修飾による輸送特性の制御に重点を置いた研究を推進する。今後の予定として、まずは、吸着フッ素の配置を制御することにより、疑似的なナノリボン構造や、湾曲、蛇行した輸送経路における電子輸送特性の解析を進めることで、更なる知見を深める。これらの知見を元に、電流の空間経路の曲率を制御することで電流が持つ角運動量を制御し、原子層状物質におけるバレー偏極に与える影響を明らかにする。これにより、電流誘起のバレー偏極の大きさを制御する支配的なファクターを明らかにすることを目指す。
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