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2019 年度 実施状況報告書

原子層状物質における電流誘起によるバレー偏極生成に関する第一原理研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K04873
研究機関北海道大学

研究代表者

江上 喜幸  北海道大学, 工学研究院, 助教 (20397631)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードカーボンナノチューブ / 電子輸送特性 / 第一原理計算 / 大規模計算
研究実績の概要

本研究課題では、電流の持つ軌道角運動量を利用して原子層状物質におけるバレー偏極の制御可能性について研究を進めている。当該年度においては、そのための基礎研究として、数万原子以上を含んだ大規模系における電子輸送特性について、第一原理計算による数値シミュレーションを実行するためのアルゴリズムを開発し、解析を進めた。
これまでに、数百~数十万原子からなる2層カーボンナノチューブを対象として、電子輸送特性、および電子の空間輸送経路の制御可能性について研究を行った。ここでは、ホウ素原子と窒素原子を対とするBNダイマーを外側のナノチューブに共ドープすることによって、フェルミ準位近傍での電子輸送における空間輸送経路を制御することを考えた。また、ドープするBNダイマーの配置周期と電子透過率の相関関係についても解析を行った。先行研究として、経験的パラメータによる強束縛近似を用いた数値シミュレーションにおいて数万原子以上の計算モデルにおける電子輸送を行った例はあるが、第一原子レベルの高精度シミュレーションにおいて、数十万原子といった巨大な系の電子輸送特性計算を行った例は、代表者の知る限り世界でも例がないものである。このような大規模シミュレーションを実行することによって初めて、散乱ポテンシャルの配置が電子輸送特性に与える新たな知見を得ることができた。今後、本手法を原子層状物質に対して適用し、輸送電子の空間経路制御可能性に関する知見を深めるため、さらなる解析を進める。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

一般に、第一原理に基づく電子輸送特性計算では、システムサイズの3乗に比例した計算コストがかかるため、大規模系への適用は困難である。本研究では、電流経路によるバレー偏極の制御を考えているため、長距離の電子輸送シミュレーションが必要である。そこで、当該年度において、上述の通り、大規模系における第一原理電子輸送シミュレーションにおけるコストを効率的に削減し、かつ計算精度の劣化を抑えたアルゴリズムを開発した。開発したアルゴリズムを用いることで、長さ方向に対する計算コストの増加を線形にまで抑えることを可能にした。
適用例として、チューブ軸方向に対して周期的にBNダイマーをドープした。ここで、円周方向の配置について、ランダムなモデルと配置をそろえた周期モデルを考え、電子輸送特性の違いについて解析を行った。DWCNTの長さをサブナノスケールからサブミクロンまで変化させた際に、ランダムモデルと周期モデルにおけるコンダクタンススペクトルの変化の違いを解析した。その結果、ランダムモデルでは、チューブ長が長くなるにつれコンダクタンスが大きく減少したのに対し、周期モデルでは高いコンダクタンスを保ったままであった。また、周期モデルではスペクトル中にディップ構造が見られ、これはクローニッヒ=ペニーモデルに見られる、周期的な散乱ポテンシャルによって生じるバンドギャップの影響が現れたものと考えられる。このような応答は、大規模系の計算を行うことで初めて観察することができたものであり、前述のように、数十万原子を含んだ系における第一原理電子輸送シミュレーションは世界的にみても類を見ないものである。

今後の研究の推進方策

本研究課題では、電流の空間経路を制御するための手段として、原子層状物質の幾何構造を機械的、物理的に変化させる、あるいは、原子の吸着、置換、欠陥などの導入によって化学的に変化させることを考えている。当該年度の研究成果として、電子輸送方向の長さに対する計算コストの大幅な削減を、計算精度を劣化させることなく達成した。これにより、大規模な計算モデルでも効率的かつ精度よく扱うことができ、長距離電子輸送シミュレーションの実行が可能となった。
次年度は、新たに開発したアルゴリズムを用い、初年度に行った化学修飾グラフェンにおける電子輸送特性の制御に重点を置いた研究を推進する。ここでは、グラフェンのフッ化による化学修飾を考え、フッ素の配置を制御することにより、疑似的なナノリボン構造や、湾曲、蛇行した輸送経路における解析を進めることで、長距離電子輸送特性についての知見を深める。これらの知見を元に、電流の空間経路の曲率を制御することで電流が持つ角運動量を制御し、原子層状物質におけるバレー偏極に与える影響を明らかにする。これにより、電流誘起のバレー偏極の大きさを制御する支配的なファクターを明らかにすることを目指す。

次年度使用額が生じた理由

コロナウィルス感染症拡大防止のため、予定していた学会や研究打ち合わせにかかる出張取り止めのため、次年度使用額が生じた。
次年度において、消耗品としてデータ保管用のHDDの購入、および大型計算機施設の利用料に充てる。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件)

  • [国際共同研究] Forschungszentrum Juelich(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Forschungszentrum Juelich
  • [雑誌論文] Efficient calculation of self-energy matrices for electron-transport simulations2019

    • 著者名/発表者名
      Yoshiyuki Egami, Shigeru Tsukamoto, and Tomoya Ono
    • 雑誌名

      PHYSICAL REVIEW B

      巻: 100 ページ: 075413

    • DOI

      10.1103/PhysRevB.100.07

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 大規模第一原理電子輸送シミュレーションに向けたグリーン関数計算手法の開発2020

    • 著者名/発表者名
      江上喜幸,塚本茂,小野倫也
    • 学会等名
      日本物理学会 第75回年次大会
  • [学会発表] 第一原理計算に基づく空間反転対称性の破れたⅣ族原子層における電流誘起スピン偏極2020

    • 著者名/発表者名
      大原浩平,江上喜幸,明楽浩史
    • 学会等名
      日本物理学会 第75回年次大会
  • [学会発表] 歪を持つグラフェンhBN積層構造の電子状態2019

    • 著者名/発表者名
      石川達也,江上喜幸,明楽浩史
    • 学会等名
      日本物理学会 2019年秋季大会
  • [学会発表] グラフェンナノロードにおける電子輸送特性についての第一原理計算2019

    • 著者名/発表者名
      工藤聖浩,江上喜幸
    • 学会等名
      日本物理学会 2019年秋季大会
  • [学会発表] (111)非対称二重量子井戸におけるスピン緩和スイッチング2019

    • 著者名/発表者名
      飯島智徳,江上喜幸,明楽浩史
    • 学会等名
      日本物理学会 2019年秋季大会

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公開日: 2021-01-27  

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