研究課題/領域番号 |
18K04874
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
冨松 透 東北大学, 理学研究科, 助教 (60712396)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 二次元電子系輸送現象 / 量子ホール効果 / 走査ゲート顕微法 / 電子散乱 / 局所電界制御 |
研究実績の概要 |
移動度が異なるGaAs量子井戸構造試料について、量子ホール効果における局所散乱の大きさと散乱の空間分布を、より詳細に調べた。局所電子散乱の検出には、走査型ゲート顕微法(SGM法)を利用し、二次元電子系(2DES)に微弱な局所ポテンシャルを導入した際の2DES抵抗変化を指標とした。SGMシステムの走査範囲内でメサ両端部を含む広範囲を観測するため、通常サイズより小さい2DES領域(10ミクロン×50ミクロン)で測定を行った。また、これまでに取得したSGMデータについて、2DES端部の絶縁相ライン(非圧縮性ストリップ)のイメージ解析を更に進めた。 試料を変えた系統的なSGM測定の結果、移動度による局所散乱現象の違いを明らかにすることができた。高移動度試料では、非圧縮ストリップ上での局所ポテンシャル導入時に、抵抗増大が高確率で生じ、ライン状のSGMパターンが形成されるが、低移動度試料のSGM像ではランダムなドット状の抵抗増大と抵抗減少が等しい確率で生じることを確認した。これらの結果は、不純物がない場合は閉じ込めポテンシャルの形状が電子散乱位置や抵抗値を決定する主要因であるのに対し、不純物があると不均一に存在する局所ポテンシャルでの電子散乱が抵抗変化に支配的な影響を及ぼすことを示唆している。更に、SGM像に現れる抵抗増大と抵抗減少の分布のパターン解析を行い、両構造について異なる局所エネルギー散逸機構のモデル構築と検討を行った。 また、低移動度試料では2DES領域のサイズによって、量子ホール状態からバルク伝導状態への抵抗変化の様相が異なることも分かり、異なる試料サイズでの抵抗測定により一連の2DES抵抗変化のデータを取得できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初SGM測定に使う予定だったアンチドット導入試料については、作製プロセスの煩雑さと安定した局所ポテンシャル構造実現の困難さから試料作製を断念したが、代わりに通常の低移動度試料の不純物ポテンシャルを使って、局所電子散乱を調べる実験を実施できた。昨年度生じたSGMステージ駆動系の不具合も解消し、SGM測定を精力的に進め”不純物の多寡に応じた異なるタイプの電子散乱機構”を示唆する重要な知見が得られたため、小型2DES試料を使った実験の目的は順調に達成されたと言える。一方で、小型2DES試料の測定全般に時間を割いたために通常サイズの2DES試料のSGM実験が遅れている。特に不均一な局所ポテンシャルが起点となる量子ホール効果相転移は2DESサイズや構造に敏感であると考えられるため、2DES領域を系統的に変えたSGM実験も検討する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験で”量子ホール状態からバルク伝導状態へなだらかに移行する相転移”について、閉じ込めポテンシャルと不純物ポテンシャルの競合で生じる電子散乱機構を提案した。不純物由来の電子散乱は、量子ホール効果の基となる離散ランダウ準位のエネルギーギャップの影響も受けることが理論研究で報告されている。この効果は、相転移現象の機構説明に利用できる重要な現象であると考えられる。そこで、磁場制御によりエネルギーギャップの大きさがSGM像に及ぼす影響を調べる。 また、”臨界電流で量子ホール状態が一気に崩壊する劇的相転移”の現象解明に向けた実験にも注力する。このために通常サイズ、もしくは大きいサイズの2DES試料を利用する必要があるが、2DES の全領域がSGM走査範囲内におさまらないという問題があるので、評価領域を限定したSGM手法を新たに確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初行う予定であった試料へのアンチドット導入の計画を変更し、これまで使用していた試料での実験を継続した。そのため、アンチドット試料量産のための試料・試薬購入を行わなかったため。次年度以降、不均一局所ポテンシャルと2DES抵抗の関係について、異なる磁場や試料サイズの条件で更に実験が必要になったため、低移動度GaAs試料の追加購入を行う予定である。
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