研究課題/領域番号 |
18K04875
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
光田 暁弘 九州大学, 理学研究院, 准教授 (20334708)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 圧力 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)従来型の最高圧力3GPaを超える新型圧力セルの導入、(2)高圧下強磁性スピン共鳴の観測に向けたセラミックス製部品の導入、(3)スピンナノ素子の二次元界面におけるラシュバ効果の圧力制御を目指した研究を行った。 (1)は東大で核磁気共鳴測定用に開発された小型圧力セルの導入を目指した。10GPa級の圧力発生が可能なこと、小型で磁場中の回転が比較的自由に行えることから、スピンナノ素子の高圧下研究にも適していると考え、導入を進めた。現時点で室温で約8GPaの圧力発生に成功したが、その直後に圧力が徐々に抜け、アンビルにヒビが入っていたことが判明した。しかしながらスピンナノ素子の研究には十分使えそうな感触を得た。(2)は前年度に圧力セル内で強磁性スピン共鳴を起こしてスピンポンピングによる純スピン流注入を目指したが、高周波磁場を圧力セル内に導入する際の減衰が大きく、明瞭な共鳴信号を得ることが難しかった。本年度は神戸大で電子スピン共鳴用に開発された高圧セル用セラミックス製部品を導入し、導波管によってGHz帯の高周波を導入することを目指した。圧力は2GPaまで発生させたところでセラミックス製部品が破損してしまったが、従来と同程度の圧力で実験が可能との感触を得た。(3)はラシュバ効果が報告されている二次元界面をもつスピンナノ素子の作製を試みており、良質な薄膜が作製されつつあるが、現在のところこの効果の観測には至っていない。 これまでの成果発表として、交換バイアス型スピンバルブ素子の圧力効果について、2019年11月にベトナムで開催された国際シンポジウムで招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度から引き続きスピンナノ素子の圧力下研究の困難さに直面している。高圧セル内の強磁性共鳴については、従来方式の、金属製プラグの細孔に通した極細同軸ケーブルによって圧力セル内に高周波磁場を導入する方法は難しいと判断し、セラミックス製ピストン、プラグおよびバックアップを使用して導波管によって導入する方法の模索することにした。また、より高い圧力下で実験を行うことを目指して、核磁気共鳴実験用に開発された小型ブリッジマン型圧力セルを導入することにした。これらの方法による圧力発生については前者は2万気圧、後者は8万気圧まで印加することには成功したが、実際の物性測定は次年度に持ち越すことになる。 またラシュバ効果が期待できる二次元界面の圧力効果の研究もスタートさせたが、薄膜作製や常圧測定のところで足踏み状態である。 一方、本研究初期に行った交換バイアス型スピンバルブ素子の圧力効果の結果については、国際シンポジウムで招待講演で発表することができ、論文としてまとめて受理された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度導入した小型ブリッジマン型圧力セルとセラミックス製部品によって、実際に圧力下の物性測定や強磁性共鳴による純スピン流注入を進めたい。前者は比較的容易な直流2端子法の抵抗測定などから着手したい。従来(3万気圧)よりもかなり高い圧力領域(~8万気圧)までナノスピン素子の物性変化を追いかけることができる。また、アルゴンを圧力媒体とする手法も東大のグループによって公開されており、この手法を導入することにより静水圧性の高い圧力下での測定も可能となる。従来使用してきた圧力媒体は2~4万気圧で固化して、圧力が一軸圧的になる問題があった。スピンナノ素子の高圧実験を進めていると、この一軸圧性が物性に影響を与えていると思われる現象が観測されている。また、従来の圧力媒体が素子表面を劣化させている疑いもあり、不活性ガスであり、静水圧性の高いアルゴンを用いてこれらの問題をクリアしていきたい。同時にセラミックス製部品を用いた従来型の圧力セルによって、圧力下で強磁性共鳴を誘起し、純スピン流現象の圧力効果研究につなげていく。また、本年度着手したラシュバ効果の圧力効果研究を引き続き推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、新型の高圧セルやセラミックス製部品を急遽導入することになった。これらの装置を連続的に稼働させるために、次年度に消耗部品の購入が当初見込みよりも増加することが予想される。更に、既にこれらの装置の一部部品(消耗部品ではない)が実験中に破損したため新しい部品を発注済であるが、その製作に時間がかかり、納品が年度明けになる。これらの支出を見越して、次年度使用額が生じることとなった。
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