最終年度は、本研究で異方性磁気抵抗効果から見いだしたNi薄膜の圧力誘起垂直磁気異方性について、直接観測することを目的として、高圧下で磁化測定を行った。測定装置には試料振動型磁束計(VSM)とSQUID磁束計の2つの手法を用いた。軽量の圧力セルを用いることでVSMでの測定が可能になるとともに、セルの磁化の影響を差し引くのもVSMの方が容易であることがわかったためVSMによりデータを取得した。この結果、基板の素材の違いによりNi薄膜の垂直磁気異方性の違いが明らかになった。今のところ、基板によるクランピングによる一軸的な圧力の影響が考えられる。 研究期間全体を通じては、ナノスピン素子に対する圧力下の測定を広く行い、圧力効果の観測に成功した。Ni薄膜に対しては異方性磁気抵抗効果と磁化測定から圧力誘起垂直磁気異方性を見いだすことができた。また、Pt/CoFeB二層膜において、圧力セル内で、強磁性共鳴によってスピンポンピングand/or温度勾配による動的スピン注入を引き起こすことに成功し、逆スピンホール効果の信号が圧力によって増強されることを見いだした。この結果の解析により、逆スピンホール効果と電流磁気効果の分離をし、逆スピンホール効果が0~0.8GPaの圧力領域で8%増大しその後飽和していることが明らかになった。逆スピンホール効果の圧力増強の原因としては(1)Ptのスピンホール角の増強(2)PtとCoFeB界面のミキシングコンダクタンスの増強の2つが考えられる。この点を解明する一手段としてPtのバンド計算を行い、圧力下における内因性スピンホール伝導度を調べたところ、圧力とともにスピンホール伝導度が減少する傾向が出ている。よって、ミキシングコンダクタンスの増強の可能性が極めて高いと考えられる。 以上のようにナノスピン素子の圧力効果研究を確立し、一定の成果を得ることができた。
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