研究課題/領域番号 |
18K04879
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 之博 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (00281791)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 熱整流 / 単層カーボンナノチューブ / 熱伝導 / 欠陥 / 格子力学モデル / グラフェンシート / 熱コンダクタンス |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画の時点ではグラフェンシートに対して、フォノンの分散関係および、欠陥を導入した場合の熱コンダクタンスの数値シミュレーションを行う予定であったが、現時点での研究の話題性および重要性から、単層カーボンナノチューブに関する研究を前倒しでおこなった。グラフェンシートについては、カーボンナノチューブの研究後に行う。 まず、最初に、格子力学モデルの中の、斎藤らによって提案されたフォースコンスタントモデルを用いて、欠陥のないカーボンナノチューブのフォノンモードの分散関係を求めた。また、熱コンダクタンスを求める際には、ランダウワーの公式を用いるため、透過率の周波数依存性が必要となる。透過率は、フォースコンスタントモデルで得られた時間発展方程式(運動方程式)をもとに数値シミュレーションを実行することで求めることができる。より具体的には、カーボンナノチューブを欠陥領域とその領域の前後の2つの領域、合わせて、3つの領域に分け、欠陥領域の前の領域で弾性波を励起し、欠陥を通過した弾性波がどれだけ欠陥領域の後ろの領域で検出されたかを調べることで得られる。結果として、炭素原子を1個抜くことで得られる格子欠陥を1つだけ導入した場合、入射方向の違いによる熱コンダクタンスの差は、3%程度となり、熱整流器として、あまり実用性は期待できなかった。 ここまで計算した時点で明らかになったことだが、使用したフォースコンスタントモデルは、得られた分散関係を見ると、たわみモードの分散関係が十分記述されなかった。この部分を修正したMahanらによって提案されたフォースコンスタントモデルを用いて、分散関係を計算した。得られた結果は、たわみモードも低周波数領域で、たわみモードが正確に記述できており、今後はこのモデルを用いて、熱コンダクタンスの計算および解析を続行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
[研究実績の概要]でも示したように、カーボンナノチューブにおけるフォノンモードおよび熱コンダクタンスの計算の際に使用したモデルに不都合が生じていることがわかり、その不都合を修正したMahanらが提案したモデルを用いて、計算をやり直している状況であるため。また、研究の話題性および重要性から、当初、グラフェンシートに対して、フォノンの分散関係および、欠陥を導入した場合の熱コンダクタンスの数値シミュレーションを行う予定であったが、現時点での研究の話題性および重要性から、単層カーボンナノチューブに関する研究を前倒しでおこなったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在行っているMahanらが提案したモデルを用いての熱コンダクタンスの再計算を継続して行う。カーボンナノチューブにおいては、欠陥の並べ方、個数、欠陥を構成する原子数、および、カイラリティに対して自由度を持つので、これらのパラメータを系統的に変えながら、熱伝導特性を詳細に調べる。この場合、熱流に対する整流効果が現れるかどうかを検討し、効果が現れた場合には上記のパラメータに対して最適化を行い、欠陥を有するカーボンナノチューブからなるフォノンダイオードの高効率化を図る。 さらに、欠陥を1列に周期的に並べた構造をもつグラフェンシートについて、解析および数値シミュレーションを行い、熱伝導特性を明らかにする。具体的には、欠陥間の間隔および1つの欠陥を構成する原子の数を系統的に変化させて、その熱コンダクタンスの違いを明らかにする。さらに、熱流に対する整流効果が現れるかどうかを検討し、効果が現れた場合には上記のパラメータに対して最適化を行い、周期的境界条件を課した無限系からなるフォノンダイオードの高効率化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画予定より、進捗状況が遅れているため、学会参加および論文発表が制限されてしまったため。 本年度使用できなかった助成金は、論文等の投稿料に充てるつもりである。 また、次年度の助成金は、申請時の計画通りに使用する予定である。
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