最終年度は、非平衡動力学法を用いて、三角形の構造欠陥をもつグラフェンナノリボンの熱伝導シミュレーションを行い、系の熱整流効果の有無を調べた。本研究の目的は、カーボンナノ材料を用いて熱整流デバイスを設計することなので、非平衡動力学シミュレーションによる熱整流効果の検証は不可欠である。非平衡動力学シミュレーションにはLAMMPSを使用した。三角形の構造欠陥をもつカーボンナノチューブの熱伝導シミュレーションを行う予定であったが、系の設定の容易さによりグラフェンナノリボンに研究対象を変更した。 まず、三角形の構造欠陥のみを持つ場合について計算した。系の温度は300Kとし、系の両端の温度差を20Kとしたとき、グラフェンナノリボンの幅に対して1/2の底辺をもつ三角形の欠陥に対して熱整流効率は1%以下となった。さらに、三角形の欠陥の底辺を大きくしても、熱伝導率自体は減少するが、熱整流効率は1%以下となった。また、底辺の長さを固定し、系の温度を300Kから50Kに下げた場合も、熱整流効率は1%以下と改善は見られなかった。これらの結果から、研究目的であった三角形欠陥による熱整流効果は、どの条件においても出現しなかった。 そこで、我々は、三角形欠陥に、その欠陥の底辺近傍に棒状の構造欠陥を加えた系を考案した。この棒状欠陥は、三角形の両斜辺に狭い間隔を保ちながら平行に置かれたもので、頂点側から伝播したフォノンはその棒状の欠陥と三角形の斜辺に沿ってガイドされ、底辺側から伝播したフォノンはその棒状欠陥と三角形の底辺によって後方散乱を受けると期待される。系の温度は300Kとし、系の両端の温度差を20Kとしたとき、その系を流れる熱流の整流効率は7%まで上昇した。さらに、系の温度を300Kから50Kまで減少させると、整流効率は23%まで上昇した。また、系の両端の温度差を大きくすると熱整流効果が減少した。
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