研究課題/領域番号 |
18K04881
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小幡 誠司 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (90616244)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酸化グラフェン / グラフェン / 六方晶窒化ホウ素 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は不活性基板上にグラフェン、ナノグラフェンを作製し、端構造の解析を行うことである。 本年度はまず、不活性基板として六方晶窒化ホウ素(h-BN)を用いて、その上に簡便かつ大量にグラフェンを作製する手法の開発を行った。酸化グラフェン(GO)はグラフェンの大量合成に適した出発物質であるが、これまで、GOのグラフェン化は銅などの金属触媒か、1000℃以上の高温処理を用いなければ困難であった。しかし、本研究で初めて、絶縁物であるh-BNが、メタンプラズマを用いたGOのグラフェン化に対して触媒作用をもつことを見出した。これにより初めて金属触媒なし、500℃という低温でのグラフェン化に成功した。この触媒性がGOとh-BNの配向に依存する可能性も示唆され基礎科学的にも興味深い結果が得られている。この手法により、グラフェンの基板として非常に優れているh-BN上で大量に高結晶性のグラフェンを作製することが可能となった。さらに、超音波処理を行うことで、高密度でGOおよびナノGOをh-BN上に選択的に高密度で成膜する手法の開発にも成功した。これらを併用することで次年度以降の局所構造観察に向けた、試料の準備体制が整った。 さらに今年度は、交流電場を用いた成膜時のナノGOのサイズ制御にも成功した。ナノGOの成膜時におけるサイズ制御は困難であったが、GOが電荷を帯びていることを利用した電気泳動法により選択的にナノGOのみを成膜することに成功した。 また、GOのグラフェン化の過程を、還元中の電気伝導測定の逐次測定とRaman分光法を併用することで解明した。本手法では加熱したタングステンフィラメントを利用することでグラフェン化温度を380℃まで低下させることにも成功した。この実験から、修復過程の直前にGOのエッチングが起きていること、GO修復の活性化エネルギーが0.9 eVであることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である、基板からの影響を排除した状態での端構造観察には、真空中かつ絶縁物上でのグラフェンおよびナノグラフェンの大量生成が必須であった。これまでその様な報告はなく、その実現には困難が予想された。しかし、六方晶窒化ホウ素(h-BN)が酸化グラフェン(GO)からのグラフェン生成において触媒性を示すことがわかり、当初目標としていた、不活性基板上でのグラフェン生成に初年度から成功したことは大きな前進である。さらに、STM観察のためには高密度にナノグラフェンを生成することが必要であり、その点も克服すべき課題であった。今年度、水中での超音波処理を行うことでh-BN上に大量に単層GOを成膜する手法の開発にも成功した。この手法は処理時間を伸ばすことでナノGOの作製も可能であり、来年度以降の局所構造観察のための試料としては最適なものである。 また、2000℃程度まで加熱したタングステンフィラメントを使用した新規還元・修復法の開発にも成功した。この実験では同時に、還元・修復過程における伝導度の逐次測定によるGOのグラフェン化の詳細な過程の解明も行った。この手法により、大型の装置を必要とするプラズマ発生の過程を必要としない、簡便なグラフェン化が可能となった。さらに本手法では基板温度も380℃まで低下させることに成功し、局所構造観察のための試料作製が容易となった。これは次年度へ向けて大きな前進である。 その他にも、交流電場を用いたナノGOの新規成膜手法についても進展があった。この手法により、低濃度のナノGO溶液からでも高密度の成膜が可能になった。 上記の知見をもとに、次年度は局所構造観察およびその試料作製に注力する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は局所構造観察に適した試料作製の準備として、メタンプラズマを用いた六方晶窒化ホウ素(h-BN)上でのグラフェンの大量合成および加熱したタングステンフィラメントを用いた低温かつプラズマ不要でのグラフェン化の開発に成功した。 そこで次年度以降はSTMやTEMを用いた局所構造観察用の試料作製に注力する。高密度でのグラフェン化には成功したが、最終的なSTM観察には金属単結晶を用いた測定が必要である。そこで、触媒作用の高いPt(111)や作製報告の多数あるFeなどを用いて単結晶上にh-BNを一様に成膜した後、本年度開発したGOの高密度成膜とグラフェン化手法を用いてグラフェン/h-BN/金属単結晶という構造を作製する。h-BN作製にはアンモニアボランとプラズマを用いた作製や、Fe上での化学気相成長法を試みる。 さらに、当初の計画通りカーボンナノチューブ(CNT)の酸化開裂による幅の制御されたGOリボンの作製、その還元・修復による高結晶性のグラフェンナノリボン(GNR)の大量合成とその局所構造観察も目指す。この際にも、今年度に開発した高結晶性グラフェン作製法をGOナノリボンに適用し、グラフェン化を目指す。ただし、GNRの場合、グラフェンとは生成条件が異なることが予想されるので、条件の最適化を行う。 これらの試料作製の準備が整い次第、STMおよびTEMを用いた局所構造観察を実行する。その際にグラフェン化条件による端構造の差異を解明し、zigzag 端やarmchair端の作り分けを目指す。また、h-BN上のグラフェン化がGOとh-BNの配向に依存する原因や最適な配向角度なども原子レベルでの観察を行うことで解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は六方晶窒化ホウ素(h-BN)上でのグラフェン化やタングステンフィラメントを用いたグラフェン化過程の解明などを行ったが、h-BNは物材機構からの提供を受けた他、装置は以前から継続して使用していたものを利用したために、新たな装置購入の必要がなかったことが理由である。
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