研究課題/領域番号 |
18K04886
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
巽 一厳 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (00372532)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 顕微電子分光 / 中性子非弾性散乱 / 理論計算 / 行列分解 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,2次元の位置情報とエネルギーを引数にとる3次元の分光データに対して,これまでに申請者が行ってきた二次元行列分解(two-way解析)をさらに拡張し,データの構成要素の空間分布を顕に捉える三次元テンソル分解(three-way解析)に基づき,物理的に意味のあるスペクトルデータを抽出することである.当初は走査透過電子顕微鏡に付随する電子分光(電子線エネルギー損失分光,エネルギー分散型X線分光)を対象にすることを予定していたが,これに加えて,有望な対象として,中性子非弾性散乱データにおいても行列分解を検討した. 電子線エネルギー損失分光では,電子磁気円二色性信号の高い空間分解能での抽出が1つの大きな課題である.この準備段階として,分光器の入射絞りのパターンを通常の円状のものからベンチレーター型のものに換えることで,同信号が得られることを実験・理論の両面から検証してきた.これまでに提案されてきた手法と異なり,走査透過型電子顕微鏡と組み合わせることで,ベンチレーター型入射絞りは,マイクロオーダーの分解能から原子分解能までは電子磁気円二色性信号がこの手法で広く獲得できることが研究者協力者が行った理論計算から示された. 中性子非弾性散乱データに関しては,角度分解や外場を変えた測定,時間分解で得られた大規模データ,多次元データにおいての行列分解が有望であることが見出された.データ駆動型の解析として,これまでに電子線エネルギー損失分光およびX線吸収分光のスペクトルデータについて東京大学のグループにより提案された,スペクトル形状のクラスター分類と原子構造の決定木構築を応用することにより,スペクトル形状からその形状が反映する原子構造を推定できる可能性が見出された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電子顕微鏡分光データ以外の分光データについては,多くの可能性が見出されたが,これらについては2次元行列分解の準備を進めている段階であり,高次元の分解はまだできていないため.
|
今後の研究の推進方策 |
ベンチレーター型入射絞りを用いて得た走査透過電子顕微鏡での電子線エネルギー損失分光データについて,行列分解により磁気円二色性信号を抽出する.また,中性子非弾性散乱データとしては,時間分解の大規模データなどを最初に対象とする. いずれの分光においても,まず理論計算でのスペクトルデータにノイズを加えた模擬データにより分解を行い,その次の段階として実験データの行列分解を試みる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度にJ-PARCでの中性子非弾性散乱データの獲得およびその解析を予定しており,このために,当初考えていた電子顕微鏡試料作製用の機械研磨装置の購入を見送ったため.
|