単層カーボンナノチューブは直径が数ナノメートルの円筒型をしており、通常は数十本から数百本が2次元三角格子を組み凝集したバンドルを形成している。単層カーボンナノチューブは内部に一様な空洞があり、この内部空洞を利用することでナノメートルスケールで構造が制御された微小な物質を作製することができる。このようなナノ構造物質では通常サイズのバルク物質とは異なる物性が出現することが知られている。本研究では単層カーボンナノチューブバンドルに極性分子の一種である水分子を吸着させることで、ナノチューブ内部の空洞に微小な誘電体を作製し、その構造と電気特性を核磁気共鳴実験、X線回折実験、走査型プローブ顕微鏡観測、電気抵抗測定、古典分子動力学シミュレーションにより調べる研究を行った。実験に使用した単層カーボンナノチューブ試料については、X線回析実験と核磁気共鳴実験を行い、チューブ内部空洞に水分子が吸着することを示す結果を得た。また、平均直径が約1.4nmの単層カーボンナノチューブ試料では、古典分子動力学シミュレーション結果が示す環状構造の水結晶が形成されることX線回折実験により確認した。これらの単層カーボンナノチューブ試料を用いて薄膜やフィルムを作製し、それらの原子間力顕微鏡観測と電気抵抗測定を行った。その結果、水を吸着することでフィルム試料の電気抵抗が減少することを確認した。最終年度は主にエタノール中への分散条件など異なる条件で作製したフィルム試料での電気抵抗測定に取り組み、水吸着による電気抵抗の変化に再現性があることを確認した。
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