研究課題/領域番号 |
18K04896
|
研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
瀧本 竜哉 神戸学院大学, 薬学部, 助教 (10590044)
|
研究分担者 |
佐々木 秀明 神戸学院大学, 薬学部, 教授 (30122245)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 水分散性ナノダイヤモンド / カリックス[4]チアクラウンー5 / ヘテロシクロファン / 有機水銀(II)化合物 / 結合定数 / 金属錯体 / 計算化学 |
研究実績の概要 |
昨年度までに、本課題で設定した研究目的1~4のうち、1~3については終了している。そのため、現在、目的1~3の研究成果を論文として報告するため、追加データの解析および論文の執筆活動を行っている。 まず、結合定数を水銀イオンを捕捉したクラウン部位のケミカルシフトの変化のみから算出するだけでなく、t-ブチル基やカリックス[4]アレーン(CA4)部位のベンゼン環のケミカルシフトの変化からも結合定数を算出できることが分かった。このことは、複雑にカップリングし、かつ溶媒や水のシグナルと被るクラウン部位のケミカルシフトの変化からだけでなく、シングレットのシグナルでかつ、他のシグナルと被りにくい、t-ブチル基やCA4部位のベンゼン環のケミカルシフトより結合定数を算出できることから、より正確に結合定数の算出が可能となった。 次に、SCIGRESSを用いて結合の様子をシミュレーションしたところ、有機水銀モデルとして用いた酢酸水銀やフェニル水銀はCA4の疎水性空洞で安定化せず、チアクラウン部位で安定化し、有機水銀の疎水性部位はCA4へ挿入されないことが示唆された。 また、目的4の水溶性ナノダイヤモンド(CA4)へのカリックス[4]チアクラウン-5(CA4SC5)の固定の際に、CA4SC5へリンカーの導入が困難であったことより、別の水銀捕捉材の検討を行った。新しい捕捉材の候補としては、[3.3](2,2')(4,4'-ビチアゾロファン)であり、本化合物が水銀イオンを捕捉することがH-NMR測定より分かった。しかし、本化合物の合成収率は低く、現在、精製方法や反応条件の最適化の検討を行っている。 さらに、本ビチアゾロファンは架橋鎖へアミノ基を有するため、リンカーの導入が容易に行えることは確認済みである。最後に有機アルカリ化合物についてもCA4SC5との結合能を調査している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度と同様に本年度までに、本課題で設定した研究の目的1~3については終了しているが、目的4についてはまだ終了していない。目的4が終了していない理由として、昨年度同様に目的1~3の研究成果を論文としてまとめるため、昨年度より執筆活動に力を入れていること。また、論文執筆に必要な補足データの収集をおこなっており、例えば、CA4SC5の新たなシグナルを用いた結合定数の解析やCA4SC5の水銀捕捉サイトを考察するために、コンピュータ・シミュレーションを用いた解析を行っているためである。 また、CA4SC5を水分散性ND表面へ固定する際、CA4SC5へリンカーが導入できず、目的4の水銀捕捉能を有する水分散性NDの合成が達成できていない。そのため、現在、水銀捕捉能を有する代替化合物として、[3.3](2,2')(4,4'-ビチアゾロファン)を用いて、水銀化合物に対する捕捉能や水分散性NDへの固定方法の検討を始めたところである。ビチアゾロファンの合成経路やリンカーの導入が可能であることは確認済みであるので、現在は合成条件の最適化やリンカーの導入を本年度中に行う。 さらに、CA4SC5は有機水銀化合物の捕捉に適した構造を有するため、本化合物へのリンカーの導入検討も引き続き継続予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度報告予定であった研究成果論文であるが、結合定数の再解析や水銀イオンの捕捉機構の考察のため、論文としての研究成果報告が遅れている。しかし、実験、解析や考察はほぼ終了し、原稿もほぼ仕上がっているため、令和5年度内には専門誌への研究成果の掲載が可能であると考えている。 次に、水分散性NDに対して水銀捕捉材であるCA4SC5を導入する際に、CA4SC5へリンカーを導入しづらく、CA4SC5を水分散性NDへ固定できない問題が生じている。そのため、水銀捕捉材として機能するビチアゾロファンをCA4SC5の代わりに水分散性NDへ固定することとした。既にビチアゾロファンの合成は終了し、またリンカーの導入も可能であることを確認済みであるため、現在はビチアゾロファンの合成条件や有機水銀化合物に対する検討を始めている。また、今後、本ビチアゾロファンへリンカーを導入後、水分散性NDへの導入を試みる。 さらに、今まで扱ってきたCA4SC5へのリンカーの導入方法も再検討しており、合成手順を変え、まずCA4へリンカーを導入した後、チアクラウンの分子内環化を行い、リンカーを導入したCA4SC5の合成も試みる。 最後に、有機アルカリ化合物に対するCA4SC5の捕捉能についても考察するため、有機アルキル化合物とCA4SC5の共存下でのNMR測定により、捕捉の有無を確認すると同時にコンピュータ・シミュレーションにより、結果を考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
まず、昨年度と同様に、コロナ禍での研究ということで、学生の研究時間の短縮、また、大学業務の増加による自らの研究時間の減少により、消耗品や器具購入のスピードが極端に低下したことが原因である。また、近年は論文執筆のため、コンピュータ・シミュレーションによる実験の考察やデータの解析に時間を費やしており、wetな実験の実験量が低下したことも要因である。 本年度はコロナに対する警戒体制も明けて、今まで通り学生も実験できる見込みであることから、残予算は当初計画していた研究活動に充てる予定であり、順調に使用できるものと考えている。
|