研究課題/領域番号 |
18K04900
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
武仲 能子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (60467454)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノロッド / 界面活性剤 / 成長メカニズム / ゲル化 |
研究実績の概要 |
金ナノロッドは、一般的に界面活性剤水溶液中で合成され、平均長はたかだか100ナノメートル程度である。しかし、合成温度を界面活性剤のゲル化温度より低くし、界面活性剤ゲル中で金ナノロッドを成長させると、金ナノロッドの平均長は1マイクロメートルを超える。 界面活性剤ゲル中でナノロッドを成長させると、なぜ平均長が10倍以上長くなるのかを明らかにすることが、本研究の目的の一つであり、これは昨年度計画を前倒しして解明することができた。本年度は、この内容を論文としてまとめ、国際学術雑誌(Journal of Physical Chemistry B)から出版した。 本研究のもう一つの目的は、金で観察される界面活性剤ゲル中でのナノロッド合成を銀にも適応し、界面活性剤ゲルを用いた銀ナノロッドの合成法を開発することである。銀ナノロッドは数百度の高温で合成されるのが一般的であるため、常温で合成できればエネルギーの削減につながる。これまでに、銀ナノロッドの酸化を抑制するため窒素充填したグローブボックス内で合成できる環境を整え、さらに銀ナノロッドの合成には銀結晶核の調整過程が強く影響していることを突き止めてきた。本年度は銀結晶核の調整過程に強く影響する因子について検討したところ、紫外線による銀の還元が強く影響していることわかった。そこで銀結晶核調整過程における光照射を調整し、銀結晶核を安定して作製することに成功した。さらに界面活性剤と銀イオンとの静電相互作用による結合を考慮に入れ、これまでに用いられてきたカチオン性界面活性剤ではなく、アニオン性界面活性剤を用いて合成を試みた。その結果、数マイクロメートルの銀ナノロッドを合成することに成功した。またこの銀ナノロッドを抗菌材として利用すべく、マイクロ流路を用いた分散技術も検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、研究を進めることができた。本研究で明らかにするべき課題は2つあり、①ゲル中成長法で、銀ナノロッドを合成できるのか。②ゲル中成長法における界面活性剤自己集合構造と金属ナノロッド成長の相関解明、の2点である。このうち、②については、昨年度に計画以上に研究が進展し、目的を達成することができた。そこで、まだ解決していなかった①の課題を解決するべく研究を進めた。そして今年度は、界面活性剤ゲルを用いた銀ナノロッドの合成手法開発の糸口をつかんだ。これまでに、結晶核の安定な生成条件を解明し、さらにこれまで全く使用されていなかったアニオン性界面活性剤を用いることで、銀ナノロッドを再現性良く合成することに成功した。当初の計画通りに、最終年度である今年度は、合成条件の最適化を行い、1マイクロメートルを超える長さの銀ナノロッドを高収率で合成できる条件を求める。以上より、本年度までに予定していた成果を得ることができたため、おおむね順調に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度なので、実施計画のうちまだ目標を達成していない、銀ナノロッドの常温合成法の最適化を行う。具体的には、アルキル鎖の異なるアニオン性界面活性剤の濃度と合成時のpH、温度を最適化して、1マイクロメートルを超える長さの銀ナノロッドを高収率で合成できる条件を求める。特に、各界面活性剤のクラフト点(ゲル化温度)の上下で、どのような長さの銀ナノロッドが合成されるかに注目する。 金ナノロッドの場合は、アルキル鎖C=12-14の界面活性剤で合成したものの長さが最短であり、アルキル鎖C=4や18で合成したものはマイクロメートルオーダーの長い金ナノロッドができたことから、銀ナノロッドにおいても同様の傾向があるのか確認し、成長メカニズムにも迫る。 さらに、ヘキサデシル硫酸ナトリウムを用いて合成した銀ナノロッドは、ある条件で表面が凸凹になっているように観察される。この銀ナノロッドは抗菌剤としての利用が期待できることから、本年度は銀ナノロッドの合成法と抗菌材への利用に関する特許出願も検討している。具体的には、マイクロ流路を用いて銀ナノロッドを樹脂内に分散させる技術や、繊維への折り込みなどを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は、10月から契約職員の雇用を予定していたが、適任者が見つからず実質令和2年1月からの雇用となった。そのため、人件費として計上していた分を次年度に繰り越した。令和2年度は、繰り越した金額で当初の実施計画にはなかった、合成した銀ナノロッドの抗菌材としての利用を検討し、特許出願をはじめとした社会還元を目指す予定である。
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