研究課題/領域番号 |
18K04901
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小橋 和文 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (60586288)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 吸着等温線 / 基準物質 / 平坦性 / 相対圧 / 表面組成 / 比表面積 / 細孔 |
研究実績の概要 |
2年目(R1年度)もナノ材料モデル物質としてCNTを研究対象とし、CNTに適したN2ガス吸着の基準物質の検討を行った。1年目に得られた極低圧領域での表面平坦性に関する知見を活用しながら、表面組成の観点から種々のカーボン材料の評価を行った。また、これらの知見に基づきCNT集合体(バンドル)へのN2吸着サイトを実験的に明らかにできた。この成果によって、実用化研究で検討されているCNT膜、糸、バルク等の成形体の構造解析を今後、詳細に進めることができる。加えて、CNT集合体が作り出す表面の学術的な深い理解が期待できる。今年度の具体的な研究内容を記す。 表面組成の観点からCNTに適した基準物質を検討するため、種々のカーボン材料(活性炭、活性炭素繊維、CB、黒鉛、メソポーラスカーボン、カーボンナノホーン、CNT)をXPSにより評価した。試料調製方法、測定条件の検討を重ね、基板や試料調製に由来するO元素を極力排除した計測が行えるようになった。C1sとO1Sに着目し、O/C比の高い活性炭、活性炭素繊維とO/C比の低いその他のカーボン材料(CNT含む)に分類できた。 次にN2吸着等温線によるCNT集合体の構造解析が行えるよう、CNTバンドルへのN2吸着サイトの解明に取り組んだ。ポテンシャルエネルギーから極低圧領域の初期(相対圧10-8~)に吸着が起こると考えられるinterstitial channel(IC)について実験的な検証を行った。直径分布の狭い単層CNT(eDips)粉体の未精製品、精製品、1200C真空加熱品を比較したところ、いずれも平均幅25nm程度のバンドル構造をもつが初期吸着量が異なった。さらにTGA、IR評価を行い、精製、真空加熱処理によりカーボン不純物が減少しICサイトへの吸着量が増大することが分かった。これらの研究成果をNT19国際学会と日本吸着学会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学術的な理解が望まれるナノ粒子の集合体が作り出す表面は評価が容易ではないが、モデル物質としてCNTを選択し評価に取り組んでいる。進捗状況としては、ガス吸着によりCNT集合体の表面を評価する上で必要な基準物質の選定ができてきた。表面平坦性とともに表面組成の観点から、候補となる物質を検討した。表面組成については種々のカーボン材料のXPSを行い、O/C比の高い活性炭、活性炭素繊維とO/C比の低いその他のカーボン材料(CB、黒鉛、メソポーラスカーボン、カーボンナノホーン、CNT)への分類ができた。 これらの基準物質選定で得られた知見に基づき、CNT集合体(バンドル)へのN2吸着サイトを実験的に検証した。これまでinterstitial channel(IC)への吸着は十分解明されていないが、単層CNTを対象として複数の手法で多角的な評価ができた。eDips EC1.5粉体の未精製(as-grown)品、精製(開孔)品、1200C真空加熱(閉孔)品を比較したところ、いずれも平均幅25nm程度の類似したバンドル構造をもつことが分かった。さらに、極低圧領域のICサイトに相当する吸着量はそれぞれ異なった。一方、TGA、IRにより、精製、真空加熱処理後のカーボン不純物量の減少を確認した。また、CNTの見かけ密度から、精製後のCNT開孔、真空加熱処理後のCNT閉孔が示唆された。これらの多角的な評価結果を踏まえて未精製、精製、真空加熱品の吸着等温線を解析すると、ICサイトへの吸着量はカーボン不純物の減少により増大することが明らかとなった。 これらの研究成果をNT19国際学会と日本吸着学会で報告し、CNTに適する吸着等温線の基準物質の重要性を確認できた。また、ICサイトの実験的な検証は、CNT開孔の有無の観点から調べるとより良いという指針が得られ、その検証を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
表面平坦性と表面組成の観点から絞り込んだCNTに適した基準物質の活用をガス吸着法で進める。また、今年度明らかにしたCNT集合体(バンドル)のN2吸着サイトを基にCNT糸、膜、バルク等の部材を評価しCNT実用化研究を推進する。さらに、CNT集合体が作り出す表面の学術的な理解を深め、他のナノ材料への展開を図る。 CNT糸、膜、バルク等の成形体のN2吸着評価については、絞り込んだ基準物質を基に比表面積(BET、t、αs法)とともに細孔(マイクロ、メソ、マクロ孔)分布 の解析手法を検討する。細孔分布は、SEM観察や見かけ密度の測定結果とも照合して多角的な評価を行う。 一方、CNT表面組成については、種々のカーボン材料とともに表面官能基の分布を検討し、ガス吸着とともに表面の理解を進める。具体的には、SEM/EDSを用いて低、高倍率でCNT表面の元素マッピングを行い、O/C比の均一性、ムラを評価する。また、TGA、IR等により表面官能基の種類、量を調べてSEM/EDSマッピングと照らし合わせ、表面組成の評価を進める。このような評価で得られた知見から、基準物質にふさわしい表面組成を判断する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度への効率的な予算執行のため。
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