研究課題/領域番号 |
18K04903
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
御田村 紘志 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (90437054)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 相分離 / シルセスキオキサン / 光反応 / リアルタイムIR |
研究実績の概要 |
本研究の目的は光化学反応を利用して高分子材料に相分離を誘起し、ナノ構造・ナノ孔を形成することである。前年度までに、光架橋性シルセスキオキサン(SQ)とノボラック型フェノール樹脂、光ラジカル開始剤(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、HMP)からなる均一混合膜に紫外光照射し、アルカリ処理を行うことで材料表面に10-20nm程度の細孔形成を確認した。しかしながら、上記の組み合わせでは再現性が乏しく、安定してナノ細孔を形成することが難しかった。この原因として、SQの光架橋の反応性(反応速度、転化率)が不十分であったためと考えられた。本年度は、SQの反応率を向上させることを目的として、開始剤の種類や光照射時のUV照度、温度などを指標として、SQの反応率をリアルタイムFT-IRで確認しながらナノ細孔の形成を試みた。この結果、HMPの代わりに2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4'-モルホリノブチロフェノン(BDMP)を使用することで反応率が、UV10分照射時(200 mW/cm2)でHMP使用時の60%程度から80%程度に向上することが分かった。これに伴い、ナノ細孔が安定的に形成することが確かめられた。また、UV照射時の照度と試料温度が形成されるナノ構造にも影響することが分かった。すなわち、照度が低い100mW/cm2では試料温度40、60、80℃のいずれの場合でもナノ構造が形成されなかったのに対して、200 mW/cm2場合は、40、60、80℃いずれの温度においてもナノ構造の形成が見られた。650 mW/cm2の場合は、60、80℃の時に明確なナノ構造が見られた。 これらのナノ構造の形成メカニズムは相分離によるものであると考えられるが、現時点ではそれを支持するデータは十分に得られていない。このため、ナノ構造形成のメカニズムを明らかにする必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標である、高分子表面でのナノ細孔の形成には成功してため、進捗は順調といえる。しかしながら、その形成メカニズムや材料内部(深部)でのナノ構造形成については不明な部分が多いため、これらの点についてさらなる検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られたSQ表面のナノ構造(ナノ細孔)の形成メカニズムは相分離によるものであると予想しているが、現時点ではそれを支持するデータは十分に得られていない。このため、ナノ構造形成のメカニズムを分光学的手法(例えばATR-IRやXPSなど)により明らかにする。また材料内部にはUV光は減衰しながら侵入するため、深部でどのような構造が形成されているかは不明である。そこで、FE-SEMなどを使用して微細な断面観察を行うことで深部の構造解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症拡大を受けて、学会出張の分の予算が余剰となったことと、物品(光学フィルターや光ファイバーなど)の納期が予想以上に掛かると判明したため。次年度は本研究で使用している紫外線照射のための光学フィルターやファイバーが経年劣化のために性能が低下しつつあるため、これを復旧する予定である。学会発表等の情報発信のための予算も計上する。
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