現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度には主に、「小型レーザーを用いた非接触式試料保持装置の小型化・ユニット化」を行った。申請者はこれまで、据置型レーザー(波長:532nm, 出力:5W, CW)をトラップの光源として粒径380nmの酸化セリウム1粒を保持し、X線回折を定常的に測定してきた。しかし据置型レーザーとX線回折計は約10m離れており、約20枚のミラーで回折計に導いていたため、ミラーの振動や室温変化の影響でレーザー光の位置やトラップした試料粒子の位置が10~15μmドリフトしていた。ナノ粒子からの回折X線の強度は非常に弱いために(信号強度は体積に比例)、X線マイクロビーム(ビーム径約3μm)と試料粒子の長時間の安定的な空間的オーバーラップが実験の成否を分ける。レーザー光の位置やトラップした試料粒子の位置を安定させるために、小型レーザー(波長:1064nm, 出力:0.5W, CW)を導入し、音響光学変調器、ビームエクスパンダ-等の光学素子と共に1枚のプレー上に配置し光源ユニットを作成した。このユニットをX線回折計上に配置することにより、レーザー光源と試料位置の距離を1m以内に短縮しドリフトを1μm以内に抑制しすることに成功した。小型レーザーは、粒径が小さい粒子に対してより大きな拘束力が働く長波長(1064nm)タイプを用いた。 ナノ粒子1粒に対するX線回折像から粒径(結晶子サイズ)を計測する手法も確立した。粒径は回折線幅のブロードニングから装置関数を差し引いて見積もった。通常、装置関数は粒径の十分大きな標準粒子をキャピラリーに封入しX線回折測定を行い評価するが、ナノ粒子1粒のX線回折では試料の存在する空間領域が非常に狭いため、その空間領域を考慮した装置関数の補正を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
小型レーザーによる光トラップと放射光X線マイクロビームを組み合わせたX線回折測定装置を用いて、「ナノ粒子の接触効果と粒径・結晶構造の関係」、「粒径効果による結晶相転移や光照射に対する結晶構造の変化」を順次明らかにする。倍率が1000倍のマイクロスコープを導入し、X線マイクロビームと試料粒子の空間的オーバーラップの精度を向上させる。開発した試料保持装置を用いて、粒径が200nm、100nm、< 100nmの酸化セリウム1粒のX線回折測定を行う。キャピラリーに粒子の集団を封入した従来の粉末測定の結果と比較し、ナノ粒子の接触効果と粒径・結晶構造の関係を明らかにする。これまでに、粒径380nmの酸化セリウム1粒のX線回折測定から、奇妙な格子収縮(J. Phys. Soc. Jpn., Vol.82, No.11, p.114608 (2013).)やレーザー照射による加熱効果では説明できない格子膨張(論文執筆中)が確認されていることから、本研究により酸化セリウムナノ粒子1粒の接触効果・粒径・結晶構造の関係が系統的に解明されることが期待できる。 粒径効果による結晶相転移が報告されているチタン酸バリウムの微小粒子1粒に対してX線回折測定を行う。測定する粒子の粒径は50nm~500nm。光トラップした単粒子とキャピラリーに封入した多粒子のX線回折像を測定することにより結晶構造を比較する。これまで主に粉末X線回折法によりチタン酸バリウムの粒子集団に対して研究がおこなわれ、結晶相転移やコアシェルモデルが議論されてきた。本研究では、チタン酸バリウムのナノ粒子1粒を非接触に保持することにより、従来の多粒子に対する測定では得ることができなかった情報を得る。また、音響光学変調器を用いてトラップ用レーザーに強度変調をかけることにより、レーザー光照射の有無や強度による結晶構造の変化や応答を解明する。
|