研究課題/領域番号 |
18K04907
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
与那嶺 雄介 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (50722716)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体高分子 / ハイブリッド |
研究実績の概要 |
本研究では、酵素や抗体表面から直接、生体機能模倣ポリマーを伸長し、タンパク質が内在的に欠如している多機能性を補完して、機能を強化したタンパク質の開発を行うことを目的とした。合成高分子の自由度と、タンパク質が有する精緻な機能を兼ね備えた、機能性強化タンパク質を創出し、相乗効果を生み出す。 本研究は当初、タンパク質を修飾するポリマーとして合成高分子に焦点を絞る予定であった。一方、近年の当該研究分野における他グループの研究進展が顕著であり、本研究のコンセプトに関して新規性の低下が懸念された。そこでタンパク質修飾ポリマーとして合成高分子だけではなく、生体適合性が高く温和な条件で伸長が可能な生体高分子にも焦点を当てることとし、その研究開発の優先度を上げた。純然たる生理条件下で、タンパク質表面から高分子鎖を伸長することで、当該研究分野に高いインパクトを示せると考えられる。具体的にはDNAに着目し、タンパク質表面からDNAの伸長反応を行うことを目的とした。 本年度の成果として、2種のDNA伸長酵素の伸長様式を評価し、それらを用いて2種類のタンパク質の表面からDNAを伸長できることを確かめた。また、クリックケミストリー用の人工塩基を、伸長したDNAに取り込ませることができた。また、細胞表面に結合したタンパク質-DNA複合体からDNAが伸長可能であった。今後は、本年度の研究で得られた知見を基に、細胞表面の機能を強化する応用展開に注力してゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初、タンパク質を修飾するポリマーとして合成高分子に焦点を絞る予定であった。一方、生体高分子を用いることで、純然たる生理条件下でポリマーの伸長が可能であり、広範な応用の可能性を広げ、当該研究分野に高いインパクトを示せる。そのため、生体高分子を用いた研究開発の優先度を上げた。具体的にはDNAに着目し、タンパク質表面からDNAの伸長反応を行うことを目的とした。 本年度は、選定した2種のDNA伸長酵素を用いて、2種類のタンパク質の表面からDNAを伸長し、最大で数マイクロメーターまでDNAを伸ばすことができた。具体的には、まず伸長様式の異なる2種類のDNA伸長酵素(1本鎖あるいは2本鎖で伸長)を用いて、生成した長鎖DNAの長さ分布を評価した。その結果、1本鎖伸長酵素では、基質のDNAに結合した後は解離することなく伸長しDNAの長さに大きな分布が生じた。一方、2本鎖伸長酵素では、解離と結合を繰り返しDNAの長さが比較的均一となった。また、どちらも核酸モノマーの基質特異性が低いため、人工塩基でも取り込み、クリックケミストリー用の官能基を有する核酸モノマーも利用できることが明らかとなった。 次に、これらのDNA伸長酵素を用いて、タンパク質の表面からDNAを伸長できるか評価した。まず2種類のタンパク質(ストレプトアビジンと抗体)表面に、アミンカップリング法でDNA開始点を導入した。そこへDNA伸長酵素とプライマー、核酸モノマーを添加した所、最大で数マイクロメーターまでDNAを伸ばすことができた。ストレプトアビジンに関してはビオチン結合活性を保持しており、表面をビオチン化した細胞に結合させ、そこからDNAを伸長することが可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、DNA伸長酵素を用いて2種類のタンパク質の表面からDNAを伸長できることを確かめた。今後は、伸長した長鎖DNAの特性を利用した応用展開を行う。また、細胞表面に結合したタンパク質-DNA複合体からDNAが伸長可能であったため、この技術を利用して細胞表面の機能を強化できる可能性がある。特に、細胞表面上のタンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、様々な細胞の表面改質を行うことが期待できる。このように、本年度の研究で得られた知見を基に、今後、上記の応用展開に注力する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究開発では、当初の実験計画を変更したことで、DNA伸長酵素の評価やタンパク質の活性確認といった基礎検討を中心に進めた。そのため応用実験で用いる高価な試薬(抗体や細胞培養)の使用頻度が低かった。また本研究の共同研究のために、オーストラリアの研究室に2ヶ月半滞在した際、試薬などの費用は受け入れ先に負担して頂いた。これらの理由により、当初見積もっていたよりも予算の使用額が低くなった。 一方、基礎検討は完了し、次年度以降、応用展開を中心に行ってゆく。特に、抗体や細胞培養の生化学試薬を頻繁に使う事となるため、繰り越した予算を有効活用する予定である。
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