これまでにシリコン基板をエッチング処理することで、ナノロッドの下地となるナノピラー群の作製技術の開発を行ってきた。その結果、直径90nmのナノピラー群を作製することができた。ステッパーを用いたマスク露光法により、8インチサイズでも現実的に加工できる。本年度はナノピラー群上に成長させる元素添加窒化アルミニウム(AlN)の開発を行った。 スカンジウム(Sc)添加によりAlNの圧電性能は飛躍的に増大する。これまでにクロム(Cr)やタンタル(Ta)、イットリウム(Y)やエルビウム(Er)などの元素添加の報告があるが、AlNの圧電性向上に対して十分な効果を実験的に実証されていない。結晶中の電荷バランスを考慮すると、Scと同じのIII属元素が望ましいと考えられる。YやEr添加では十分な結晶性が得られていないが、これらのイオン半径がScに比べて非常に大きいことが原因と考えられる。今回、Scよりは大きいものの、III属元素で比較的イオン半径の小さいイッテルビウム(Yb)を選択し、その添加効果を調査した。 2元同時スパッタリング装置を用いて作製した。ターゲットにはAl金属(5N)とYb金属(3N)を用いて、アルゴン/窒素混合ガス中で反応性スパッタリング法により作製した。実験計画法に基づいて、Yb添加AlNの作製条件を探索した結果、良好な結晶を得ることができた。X線による広域逆格子像を得ることで、結晶相を同定した結果、Alに対してYb添加量が37at%までの物質はウルツ鉱型の結晶であることが分かった。副生成物は広域逆格子像でも確認されなかった。002回折のロッキングカーブは2~3°であり、良好な配向性であった。格子定数はYb添加により線形的に増加した。しかし、c軸の増加率に比べてa軸の増加率が大きく、格子定数比c/aは減少した。これはSc添加と類似の挙動である。圧電定数はYb量に依存し、最大でAlNの2倍の圧電定数を示す物質を得ることができた。
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