研究課題/領域番号 |
18K04921
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
八巻 和宏 宇都宮大学, 工学部, 助教 (90579757)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導 / 単結晶 / ルテニウム系銅酸化物 / 銅酸化物高温超伝導体 / 固有ジョセフソン接合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は磁性と超伝導が共存し結晶構造内部に超伝導層(S)/(反)強磁性層(F)/超伝導層(S)が原子層のオーダで積層した接合(SFS接合)を含有する新奇固有ジョセフソン接合として期待されるルテニウム系銅酸化物高温超伝導体(組成式:GdSr2RuCu2O8,RuGd-1212)の「単結晶」を申請者が独自に開発してきた「部分溶融法」により合成すること,更に,当該単結晶試料に適切なポストアニールを加えることで超伝導と強磁性の共存を実験的に確かめることである. 昨年度までの研究により1辺の長さが100ミクロン大の立方体RuGd-1212単結晶を再現性良く合成する手法の開発に成功した.今年度はこの結果を更に発展させ,合成時の多段焼成時における焼成温度の精査によって比較的再現性良く超伝導を示すRuGd-1212単結晶の合成に成功した.超伝導転移温度は30 Kまで上昇し,面内の臨界電流値は12mAとこの系では世界最大の値の観測に成功し,RuGd-1212の超伝導がバルク的であると示唆する結果を得た.更に類型化合物で希土類層が2層のRuGd-1222に着目し,部分溶融法を適用することでRuGd-1222の場合でも単結晶を得ることに成功した.これにより2枚のCuO2超伝導層を隔てる希土類層の長さの異なるルテニウム系銅酸化物の合成が可能になり,この系の系統的な理解に向けた研究の進展が期待される. 現在,小型加圧炉の立ち上げを進めており,次年度は更なる超伝導転移温度向上に取り組む.今後は,共同研究が進む様に外部の研究機関に提供できる様な高品質単結晶の合成に向けて結晶合成条件の改善に取り組む予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定したRuGd-1212系に関しては単結晶エックス線回折による構造精密化の結果,超伝導の消失がSrサイトへの磁性Gdの部分置換であることを明らかとした.更に合成条件を検討することで超伝導を示す試料が安定して合成できる様になってきた.これらの試料を伝導測定,磁化測定を進めることで,この系の超伝導性と磁性に関して,単結晶試料を用いて評価できる目処が一定程度得られた. また,希土類層が2層のRuGd-1222といった類型化合物の単結晶の合成に成功した.そのため,構造変化が超伝導性,磁性に与える影響を系統的に評価するところまで実験を進められる可能性が出てきた.RuGd-1222の単結晶はこれまで報告がなく,本研究で初めて合成に成功した. 今後は超伝導転移温度の向上に向けたSrサイトへのGd置換の抑制に向けた合成時の酸素分圧の検討する.更に磁気秩序を担うRuサイトの占有率に関しても磁性超伝導体として重要な点であるため,特に着目して研究を進める.
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今後の研究の推進方策 |
現在,最も大きな単結晶粒が得られ,かつ超伝導の強いRuGd-1212に注目して研究を進めていくのは変わらない.これまでRuGd-1212相の安定化のため合成は酸素雰囲気下で進められてきた.しかし研究の進展によって,この高い酸素分圧がSrサイトへのGd置換を促し,超伝導転移温度が低下している可能性が明らかになってきた.そこで先ずは超伝導転移温度の向上に向け本焼成時の酸素分圧制御に取り組む.併せて高圧酸素処理を施すことで,多結晶体において転移温度の上昇が報告されているので,この点に関して確認する.また,RuGd-1222系に関しては単結晶の合成に成功したものの,単結晶の大きさが小さ過ぎて超伝導の確認に至っていないので,この点の改善に引き続き取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスによる学会の中止や物品購入の遅れ,実験の中止などの想定外の事態のため10万円程度の繰り越しが生じた.次年度は最終年度のため,論文投稿費の請求が期間内に間に合うように論文執筆を急ぐとともに,研究目標が遂行できる様,適切に予算を使用する.
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