本研究の目的は磁性と超伝導が共存し結晶構造内部に超伝導層(S)/(反)強磁性層(F)/超伝導層(S)が原子層のオーダで積層した接合(SFS接合)を含有する新奇固有ジョセフソン接合として期待されるルテニウム系銅酸化物高温超伝導体(組成式:GdSr2RuCu2O8,RuGd-1212)の「単結晶」を申請者が独自に開発してきた「部分溶融法」により合成すること,更に,当該単結晶試料に適切なポストアニールを加えることで超伝導と強磁性の共存を実験的に確かめることである. 昨年度までの研究で1辺の長さが100ミクロン大の超伝導を示す立方体RuGd-1212単結晶の合成手法の確立に成功した.これは我々の独自技術である部分溶融法を基に,試料合成時の条件を丹念に精査することで超伝導化に重要な成長パラメータを明らかに出来たためである.今年度はこの結果を更に発展させ,類型化合物で希土類層が2層のRuEu-1222に着目し,部分溶融法でRuEu-1222単結晶試料の合成に成功した.更に類型化合物であるRuEu-1212系に関しても研究を展開し,ルテニウム系銅酸化物の中でも特にRuEu-1222系が比較的安定して超伝導を示すことを確認した.この部分溶融で合成したRuEu-1222試料をSQUID磁束計を用いて磁化測定を行った.その結果,従来の部分溶融単結晶試料では不明瞭だったマイスナー信号を明瞭に観測することに成功した.これは我々の提案してきた希土類のイオン半径がブロック層の置換を考える上で重要とする仮説に沿うものであり,この系の系統的な理解に向けた研究が一定程度進展した. 本研究により,ルテニウム系銅酸化物の100ミクロン大単結晶の合成手法が確立された.今後は本研究の成果を基に,より大型の単結晶合成手法の開発を進めることで単結晶試料を用いた精密物性測定からこの系の超伝導発現機構に関する研究を進める.
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