研究課題/領域番号 |
18K04924
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
浅野 貴行 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (00301333)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クロミズム / モリブデン酸銅 |
研究実績の概要 |
本研究で着目するモリブデン酸銅CuMoO4は、構造変化に起因する「クロミズム」の性質を有する大変興味深い磁性体である。物性物理学において重要である「温度」「圧力」「磁場」「粒径」の四種変数を自在に変化させる斬新な発想と複合環境下における実験方法を適用することにより、新奇クロミズム相である「テトラクロミズム」の磁気異常の観測、さらに新しい概念を構築することを目的としている。 初年度(平成30年度)は、特に「粒径」と「クロミズム」との相関を研究するため、各種合成装置を整備し、以下の合成方法により均一粒径化されたCuMoO4の合成条件の確立を試みた。試料の粒径分布は、X線回折装置及び学内産学官連携本部に常設されているSEMを用いて計測した。 (1)遊星型ボールミル粉砕機による合成: 確立している合成条件により外的式加熱を用いて粉末試料を合成した。その後、遊星型ボールミル粉砕機を用いて粉砕条件の異なる多種類の粉末試料を準備した。粒径の異なる粉末試料の各種磁気異常を観測した結果、元素置換効果により観測された構造相転移に起因する温度での磁気異常と同様の傾向を示した。即ち、「温度」におけるクロミズム制御に加え、「粒径」がクロミズムに多大な影響を及ぼしていることが明らかとなった。また、遊星型ボールミル粉砕機の使用により巨大な「圧力」が印加されているため、その圧力によって誘起された磁気相の出現を示唆する興味深い磁気異常が観測された。 (2)マイクロ波加熱装置による合成: 外的式加熱温度に比べて低温・短時間において粉末試料を合成することに初めて成功した。しかし、均一粒径や多種類の異なる粒径の試料の定常的な合成条件の確立には至っていない。併せて、マイクロ波加熱下水熱合成法の合成を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遊星型ボールミル粉砕機による均一粒径や多種類の粒径の異なる粉末試料の合成条件を確立した。これら試料を用いて複合環境下、特に極低温・強磁場での磁気的測定の結果、新奇な興味深い磁気異常が観測された。その磁気異常は、粉砕時間、即ち粒径に大きく依存していることから、遊星型ボールミル粉砕機を使用した合成段階において印加された巨大な圧力によって誘起された可能性を示唆している。 設備備品としてマイクロ波加熱装置を整備し、粉末試料の合成を試みた。このマイクロ波加熱装置を用いた無機化合物の合成は、他の電気炉等を使用した外的式加熱法による合成に比べて開発段階にあり、マイクロ波加熱下での試料温度の測定法、断熱材や断熱容器等の選定から開始した。また、本研究で着目しているCuMoO4のマイクロ波加熱を使用した合成の報告例がないため、出発物質である酸化銅(CuO)と酸化モリブデン(MoO)のマイクロ波加熱下での物性やマイクロ波加熱の特徴である内部加熱や選択加熱を活かした合成法を試みた。その結果、外的式加熱温度に比べて低温・短時間において粉末試料を合成することに初めて成功した。さらに、外的式加熱及び内部式加熱(マイクロ波加熱)による水熱合成法を用いた粉末試料の合成の試みを開始した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、遊星型ボールミル粉砕機を使用して合成した粉末試料を用いて、詳細な粉末X線回折実験を実施することにより、合成段階の圧力に依って誘起された新奇構造の出現の有無を確認する。さらに、前年度(平成30年度)とは異なる粒径の粉末試料を多数合成する。具体的には、出発物質であるCuOとMoO3におけるマイクロ波吸収の強弱を利用した選択加熱の特徴を活かして、マイクロ波吸収の弱いMoO3の粒径を変化させることにより、固相反応法を用いたより精密な粒径制御を試みる。その試料を用いて各種複合環境下での実験を実施することにより、「粒径」と「磁性」の相関を明らかにする。 マイクロ波加熱を使用した粉末試料の合成としては、その合成条件の確立を目指して温度測定とマイクロ波照射条件を改良する。特に、マイクロ波加熱下での温度測定においては、加熱炉内の試料温度を直接測定する熱電対を使用していたが放電等の問題があるため、間接測定である放射温度計に変更して改善を試みる。また、マイクロ波の照射時間や照射温度を変化させることにより、均一粒径の粉末試料の合成条件の確立を目指す。さらに、固相反応法より低温での合成が可能である水熱合成法を試みる。まず報告されていない外的式加熱を用いた水熱合成法による粉末試料の合成法を確立し、その後、内部式加熱(マイクロ波加熱)を用いた均一粒径、さらに粒径の異なる多数の粉末試料の合成を実施する予定である。平成31及び32年度には、マイクロ波加熱によって合成した試料の複合環境下における磁気的測定を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の設備備品としてマイクロ波加熱装置を整備したが、温度測定の仕様として熱電対と放射温度計を選択することが可能であった。もっとも簡便な方法として外的式加熱で用いている熱電対を選択し粉末試料の合成を試みたが、マイクロ波出力や照射時間を変化させることにより均一粒径の定常的な合成条件を探索する際、概ね正確な試料温度を認識することができたが、高出力でのマイクロ波照射を行った際には、度々放電現象によって正確な試料温度を表示することができないことが判明した。そこで、この放電現象を回避するため間接的な温度測定の手段である放射温度計の購入を計画したが、機種選定に時間を要し年度内の購入が不可能であった。平成31年度早期に放射温度計の購入を計画しており、前年度購入整備したマイクロ波加熱装置に装着することにより正確な試料温度の測定を実現し、定常的な合成条件を決定すことができると思われる。
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