研究課題/領域番号 |
18K04926
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福島 鉄也 大阪大学, ナノサイエンスデザイン教育研究センター, 特任准教授(常勤) (00506892)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 機械学習 / 第一原理計算 / 高エントロピー合金 |
研究実績の概要 |
主要金属原子が1種もしくは2種である一般的な合金とは異なり、高エントロピー合金は多種類(5種類以上)の金属元素をほぼ等原子量含む新種の材料である。多種類金属原子が結晶格子上に不規則分布するため、ギブス自由エネルギーに含まれる混合エントロピー項が増大することにより安定化する。その高い不規則性によって生じる高強度、耐食性、耐熱性等といった従来の合金材料より優れた特性により、高エントロピー合金は新たな機械・構造材料として注目を集めてきた。 本研究課題の目的は従来の第一原理電子状態計算に立脚したマテリアルデザインにデータ科学を統合した材料開発手法の開発であり、シミュレーションとデータ科学の協奏は次世代エレクトロニクスに必要な「新機能」、それを可能にする「デバイス」、そのデバイスを実現するのに必要な「材料」と通常の過程とは逆に辿るデザイン主導の材料開発を可能にする。 2018年度は多数の遷移金属から成る高エントロピー合金において発現する興味深い磁気特性に着目し、遮蔽Korringa-Kohn-Rostoker (KKR) グリーン関数法に基づいた大規模電子状態計算手法を用いて電子状態と磁性の解析を行った。上記の電子状態計算とスーパーコンピューターによる並列計算によって作成された物性データに機械学習やマイニング等のデータ科学的手法を適用することにより磁性高エントロピー合金材料における局所構造の安定性を推定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高エントロピー合金の物性データベースを作成するため、独自の大規模電子状態計算パッケージである「KKRnano」の開発・拡張を行った。一般の電子状態計算手法とは異なり、KKRnanoでは空間をボロノイセルに区切りグリーン関数を定義するため、各ボロノイセルで局所エネルギーを計算することが可能であり、スーパーコンピュータによる大規模並列計算と組み合わせることで膨大な量の局所エネルギーのデータを取得することができる。この局所エネルギーのデータベースにデータ科学的手法を用いることにより局所構造の安定性をデータ駆動で予測することができる。 我々は記述子として第1、第2近接原子種の数を用い、線型回帰手法の一つであるLASSOによるCrFeCoNiの局所構造解析を行った。その結果、 Cr原子に比べ Ni原子の局所エネルギーの予測性能が高いことが判明した。これは磁気モーメントが小さいNi原子とは異なりCr原子は他の原子と反強磁性的な相互作用を有するためであり、記述子として最近接原子種のみを用いるだけでは不十分であることを示している。 この解析により、我々はデータ駆動で局所構造の安定性の議論に成功し、CrFeCoNiでは第一近接(二近接)Cr原子間には斥力(引力)的相互作用が支配的であることを解明した。さらに、大域的にはランダムな固溶体を形成するより、L12構造を有した方が安定であることが判明した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はKKRグリーン関数法とコヒーレントポテンシャル近似に基づいた第一原理計算パッケージMACHIKANEYAMA2002を拡張し、自動計算によるHigh Throughput Screeningで新奇な磁性高エントロピー合金探索を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
大阪大学産業科学研究所小口研究室にワークステーション(ノード1台)を導入予定であったが大規模計算のためには性能の面で難しい問題が発生しため、スーパーコンピューター「Oakforest-PACS」の一般利用に応募し計算資源を獲得した。そのためノード1台分の差額が生じた。 2019年度は生じた差額を国外・国内の長期出張旅費に割り当てる。
|