本研究課題では、KKRグリーン関数法に立脚した高速・大規模電子状態計算手法とデータ科学を組み合わせた独自のデータ駆動型マテリアルデザイン環境を開発し、新・高機能を有する高エントロピー合金材料の探索を行う。結晶格子上で多種類原子がランダムに分布した高エントロピー合金を対象に、KKRグリーン関数法 + コヒーレントポテンシャル近似(CPA)を適用することで、電子状態・磁気特性・伝導特性から成る高精度の多次元物性データベースの構築を目的とする。 我々は、数年に渡り「AkaiKKR」パッケージを用いた自動計算に取り組んできた。前年度は4元高エントロピー合金を対象に、スーパーコンピューター「富岳」を積極的に利用することで、約15万件のデータを創出し頻出パターンマイニングや回帰手法により合金の電気伝導法則を発見している。 本年度は、自動計算ツールの安定化・高速化に注力した。さらに、材料空間を5元高エントロピー合金に拡張することで、約100万件に上る物性データベースの構築に成功した。このような不規則系合金の磁気・伝導特性を含むデータベースは世界には存在せず、材料探索や物性発現のメカニズムを解明する際に、非常に重要なものとなっている。 今後は、得られた物性データベースからモデリングと特徴量抽出手法により物性支配因子を推定し、「物性・機能」→「材料」に至る逆問題を効率よく解くことで、新・高機能高エントロピー合金のデザインを推進する。
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