研究課題/領域番号 |
18K04928
|
研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
能勢 敏明 秋田県立大学, システム科学技術学部, 教授 (00180745)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 液晶 / 微分干渉観察 / DICプリズム |
研究実績の概要 |
複屈折による光線の横ずれ現象は、物理学の初歩的なテキストでも扱われる良く知られた現象であるが、通常の液晶セルは大変薄い為ほとんど認識されない。そこで、液晶セルにおける横ずれ特性を詳しく調べるために40μmの厚い液晶セルを作製し、微粒子を観察試料として横ずれ量の定量的な測定を行った。固体の一軸結晶と異なり、液晶セル内では緩やかに光軸が変形しているが、液晶の分子配向解析から試算される横ずれ量が観察される値に良く一致する事が確認された。実際に微分干渉(DIC)観察に用いるセルの厚さは通常のセルと同程度であり横ずれの直接観察は難しいが、液晶分子配向のシミュレーションにより予想が可能である事を明らかにした。 次に、実際に固体のDICプリズムを液晶に置き換える為には、常光と異常光の位相差の補償が必要になる為、TN液晶セルを用いるアイディアを検討した。透明な接着剤に埋め込んだガラスロッドを観察試料として、液晶セルに適当な電圧を印加する事により光と影に特徴づけられる微分干渉コントラストが現れる事を確認した。また、光と影が現れる方向は横ずれ方向に限られるが、TN液晶における分子配向効果から予想される方向とほぼ一致する事も確認された。 TN液晶を用いてDIC観察が可能になる事を実証したが、液晶を使う最大の意義はその制御性にある。そこで、横ずれ方向の制御の為に横方向への分子配向効果を併用する駆動方法について基礎的な検討を始めた。特に、横磁場を併用する液晶駆動法はほとんど検討されていないため、ミリ波用の超厚膜液晶セルを利用して磁場の効果について基本的な特性の評価を行った。この手法がDIC観察用の薄いセルに対してどの程度有効になるかは今後の検討課題であるが、市販の永久磁石程度の磁場でもある程度の配向効果が得られる事も明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
はじめに、生体細胞のような弱位相試料の観察において強力なツールとして広く使われている微分干渉(DIC)観察法においてキーとなるDICプリズムの機能を液晶セルを使って実現できる事を実証する事が大きな課題である。まだメカニズムが良く分らない部分も残されているが、適当な印加電圧の範囲で明らかな微分干渉コントラストが現れる事を実験的に示す事が出来た。また、今後の定量的な議論を進める為に、非常に厚いホモジニアスセルを用いて液晶の複屈折による横ずれ効果を理論的および実験的に評価出来た事は予定通りの成果である。さらに、薄いセルでの有効性はまだはっきりしていないが、超厚膜の液晶において磁場の効果が極めて有効である事も明らかになっているため、今後のTN液晶をメインした本研究の取り組みに有用な知見が得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
通常のTN液晶における磁場併用駆動による分子配向制御効果について詳しく調べる。ねじれ構造のスイッチングの可能性を検討する事が目的であるが、磁場による効果があまり得られない場合は、櫛歯電極による横電界を組み合わせた駆動法も検討する予定である。 また、TN液晶における横ずれ効果についてはまだ分からない事も多い為、横ずれの直接観察および理論的計算との比較による現象の理解を進める。特に、中間状態における透過光の偏光状態は定性的にも理解できていない為、シミュレーションを基にした考察を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は大型の電磁石装置を導入して実験を行う予定であったが、事前テストにより液晶の磁界に対する動作は当初予想してものと異なる事が分かり、既存の装置あるいは学外の装置を利用して詳しい検討を行った上で、装置の仕様あるいは実験方法の再検討を行う事としたため。
|