研究課題
本研究では、原子空孔と磁性の両方に感度を有する唯一の測定手法であるスピン偏極陽電子消滅法(SP-PAS法)を用い、光励起で原子空孔の荷電状態を変化させると積極的に強磁性を制御できるという空孔誘起磁性のカチオン原子空孔説の予測を検証する。SP-PAS法で磁気ドップラー(MDB)スペクトルを測定すると、原子空孔に磁性がある場合にはMDB強度が増大する。陽電子は窒化ガリウム(GaN)ではカチオン空孔(Ga空孔)を検出するので、Ga空孔の磁性反応が検出できる。Gdイオン照射GaNでは打ち込んだGd以上の磁性が出ることが磁化測定(SQUID測定)で報告されている。SP-PAS法ではGd打ち込み領域でMDB強度が増大し、焼鈍処理で空孔クラスターが形成するとさらに増大する事がわかった。一方、自己イオン(窒素)照射で原子空孔だけを導入した場合は磁化測定、MDB測定ともに反応が弱い。これにより単独の原子空孔ではなく、空孔クラスターと磁性原子の相互作用が磁性強化に効果的であることがわかった。しかしカチオン原子空孔説によれば、窒素イオン照射のみでも磁性が発現するはずである。磁性反応が得られない原因を探るべく測定を重ねた。H30年度に陽電子ビーム装置改良で計数率10倍化を達成し、R1年度には向上した測定精度で窒素照射GaNを再測定したが、依然としてMDB強度増大は見られなかった。R2年度にはカチオン空孔に捕獲された電子が空孔で誘起された不対電子のスピンを打ち消しているとの仮定の下、GaNバンドギャップ相当の3.4eV紫外光照射により捕獲電子を弾き飛ばしてMDB測定を行ったが、MDB強度の増加は見られなかった。窒化物半導体で空孔誘起の強磁性が出ない理由として誘起スピンの反磁性結合による打ち消しが考えられているが、本実験はそもそも空孔にスピンが誘起されていない可能性があることを示唆している。
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