研究課題/領域番号 |
18K04933
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
花田 貴 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (80211481)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 極性面 / エピタキシャル成長 / 表面構造 |
研究実績の概要 |
劈開したScAlMgO4(SCAM)c面上にMOVPE成長したGaNはGa極性となる。その要因を明らかにするため、X線CTR散乱法により、層状複合酸化物SCAMで劈開の生じる原子層を同定し、劈開面の表面原子構造を解析した。SCAMはGaNとのc面格子不整合が1.8%と小さく、In0.17Ga0.83NおよびIn0.32Al0.68Nと格子整合する。さらにGaNとの熱膨張率差がサファイアに比べ小さい、c面での劈開性により平坦なテラスをもつ基板が容易に得られる、MOVPE雰囲気における水素・アンモニアに対する耐性を持つなどの観点から、窒化物薄膜用基板として有望である。SCAMのc面は2層のAl/MgO層とScO2層が交互に積層した構造である。解析の結果、2層のAl/MgO層の間で劈開することが分かった。SCAMの劈開面では劈開面に平行な単一原子層内での電荷中性は満たされていない。しかし、c/3単位層が電荷中性を満たし、さらに、Al/MgO層終端面では劈開位置を基点とするc/3単位層がScを中心として反転対称になっているため分極電場が打ち消される。これが、この位置での劈開を助けている。さらに、真空中600℃での表面清浄化により、表面Al/MgO層のOの10~20%程度が脱離していることが分かった。MOVPE成長前には劈開面を水素雰囲気中1000℃で清浄化するため、さらに表面が還元さると予想される。GaNのN極性面は表面再構成のない理想表面ではNのダングリングボンドが満たされない状態になる。SCAM表面に酸素欠損があると電子過剰となるため、対向するGaNの底面がN極性面となって、SCAM表面の過剰電子がGaN底面のN原子に収まることで界面が安定になると予想される。このように、基板の表面構造およびGaNとの界面構造が、GaN薄膜の極性選択に重要な役割を持つことを示す成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はN極性GaNのMOVPE成長モデルの検討にほとんどの時間を使ったため、実験のほうが遅れている。N極性GaNの成長モデルについては、一つ目の論文の投稿を行い、現在、査読後の改訂を行っている。この成長モデルの検討により、ほぼ一定の成長表面形態での成長が期待される一定の過飽和度の条件のもとで成長速度を最大化し、成長量/原料費の最大化、廃棄される原料の最小化をもたらすIII族有機金属とアンモニアの流量比を求める指針が得られた。これはN極性GaNでのステップフロー成長について検討したことで得られた当初予期していなかった重要な結果であり、持続可能な環境・社会に寄与するものである。また、Burton、Cabrera、 Frankのよるステップフロー成長理論のパラメーターを定量的に求める手法として基礎科学的にも重要な結果である。このように、当初の実験計画の進行は遅れたが、有意義な理論的成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、さらにN極性GaNのMOVPE成長モデルの適用範囲を広げるように、研究を進めていく。具体的にはBurton、Cabrera、 Frankのよるステップフロー成長理論で重要な役割をはたしている貫通螺旋転位にともなう、螺旋成長を実験と定量的に比較することが可能であることを確認しており、その論文を準備する。さらに、InGaNのような混晶に対して、この成長モデルを適用することも可能であり、今後その成果をまとめていく。 実験については、SCAM基板の他に、サファイア基板上でのGaNの極性選択機構についての知見を得るために、原子レベルでの表面構造評価をめざした実験と解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はN極性GaNのMOVPE成長モデルの検討にほとんどの時間を費やしたため、実験のほうが遅れたため、次年度使用額が生じた。次年度以降はこの成長モデルの投稿論文の英文校閲費、出版費および学会発表の費用として助成金を使う計画である。さらに、実験のための原料費、出張旅費として助成金を使う計画である。
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