研究課題/領域番号 |
18K04934
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
荻野 明久 静岡大学, 工学部, 准教授 (90377721)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 二硫化モリブデン / 熱電子放出 / 光支援熱電子発電 |
研究実績の概要 |
光支援熱電子発電では半導体を電子エミッタ材料として用いることで、加熱による効果と光の量子効果を同時に発電に利用することができる。単層の二硫化モリブデン(MoS2)のバンドギャップは約1.8 eVとなることが知られており、太陽光を利用する光デバイスへの応用が検討されている。本研究では、化学気相成長(CVD)法により層状半導体のMoS2薄膜を作成し、光支援熱電子発電用エミッタの応用について検討した。 まず、MoS2薄膜は層数によりバンドギャップが異なることに注目し、CVD合成における基板温度、ガス圧力および加熱時間を変え層数の制御を試みた。CVD法ではアルゴンガスで満たした反応炉内で硫黄を昇華させ、加熱したMoまたはMoO3と反応させることでMoS2薄膜基板を作製した。MoO3を前駆体として作成したMoS2薄膜をX線光電子分光法(XPS)、ラマン分光法および電子顕微鏡により解析した結果、MoS2の層数は前駆体基板温度を670 ℃とし、炉内ガス圧および合成時間を調整することで制御できることが分かった。基板温度とガス圧により、前駆体のMoO3に由来する酸素残留比が影響されるものの、ガス圧1 kPaで60分間合成とすることで単層のMoS2が確認された。 また、電子エミッタ応用ではエミッタの表面特性も重要となるため、MoS2薄膜の表面にアルゴンおよび水素プラズマを照射し、表面原子構造の変化ならびに活性化について比較し評価した。プラズマ照射したMoS2膜表面をXPS解析した結果、水素プラズマ照射では水素化脱硫効果により照射時間とともに硫黄原子比が減少し、全硫黄原子の約80%において硫黄欠陥が形成された。この硫黄欠陥は各種反応における活性サイトとなると考えられる他、電子放出特性への影響についても検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学気相成長(CVD)法により作製した二硫化モリブデン(MoS2)薄膜をラマン分光法により測定しMoS2の層数を評価した結果、MoS2固有のピークが得られると同時に、一般に単層のMoS2を示すピーク間波数差が観察された。MoS2の固有の振動モードは、Mo原子とS原子の面内振動モード(~384.0 cm-1)およびS原子の面外振動モード(~408.0 cm-1)で構成される。2つの振動モードを示すピークの波数差はMoS2の層数に依存し、層数の減少に伴い層間相互作用が低下することで波数差が減少することが知られている。本研究においても、MoS2の2つのピークの波数差から層数を評価しMoS2の合成条件との関係を調べており、MoO3を前駆体とするCVD法における単原子層のMoS2合成条件は明らかになりつつある。なお、酸化物を前駆体とした時、CVD合成時のガス圧および反応時間が低下すると酸素残留率が増加する傾向が見られた。このため、RFスパッタ法によりMo薄膜を作製し、これを前駆体とするCVD合成によりMoS2膜を合成中である。これまでに、Mo薄膜の膜厚を0.5~15 nmとしてCVD合成した薄膜基板を解析した結果、Mo膜厚1.5 nm以上の基板においてMoS2を示す明確なラマンスペクトルが確認された。これらのMoS2の層数は、いずれも4層以上の多層膜と見積もられている。また、MoO3を前駆体とするCVD合成と比較して膜中の酸素残留比が大幅に低減した。
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今後の研究の推進方策 |
化学気相成長(CVD)法により二硫化モリブデン(MoS2)薄膜を作製する。CVD法ではアルゴンガスで満たした反応炉内で硫黄を昇華させ、700 ℃程度に加熱したMo薄膜基板または酸化モリブデンと反応させることでMoS2薄膜を作製し膜特性を評価する。また、プラズマCVD法によるリンなど不純物ドーピングも試みる。 成膜した基板は、X線光電子分光法(XPS)、紫外線電子分光法(UPS)、ラマン分光およびフォトルミネセンス(PL)法により、層数、仕事関数およびバンドギャップなどの膜特性を評価し、成膜条件との関係を明らかにする。MoS2のバンド構造は層数で変化することが知られており、太陽光スペクトルの有効活用に適した1.8 eVを目指す。これまでの研究で、バンドギャップは1.8 eVとなるMoS2の単原子層膜の作製に成功しているが、MoS2合成における前駆体MoO3に由来する残留酸素が膜中に存在する。今後、この残留酸素による影響を検討するとともに、Mo薄膜を前駆体とすることで残留酸素の低減を図る。また、薄膜基板を加熱し、耐熱性、結晶構造およびバンド構造の温度依存性について検討する。これらと並行して作成したMoS2膜の電子放出特性を評価する。この測定ではMoS2薄膜表面にアルカリ金属を吸着させて電子親和力を下げ、基板温度600 ℃程度での熱電子放出特性を評価する。
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