研究課題/領域番号 |
18K04935
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古賀 裕明 京都大学, 実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点ユニット, 特定研究員 (80519413)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自動車触媒 / 金属・金属酸化物相互作用 / 貴金属クラスター / NOx還元反応 / 電子状態計算 / ジルコニア / セリア |
研究実績の概要 |
自動車排ガス浄化触媒(三元触媒)は、大気汚染を防止するために現代社会にとって必要不可欠な高機能物質であるとともに、貴金属ナノクラスター(触媒)と固体酸化物(担体)を接合したナノ・ミクロ複合系として、表面科学およびナノ科学の興味深い対象でもある。本研究では、貴金属クラスターを金属酸化物表面に載せた担持模型に対して電子状態計算を実施し、金属と酸化物の相互作用が三元触媒の構造・電子状態・反応機構に与える様々な影響を統一的に説明することを目的としている。 2018年度では、サイズ効果と担体効果の複合作用をテーマに研究を展開した。具体的には、セリアとジルコニアの(111)面に白金族4量体や白金族10量体を担持した模型に対してGGA-PBEレベルの平面波基底密度汎関数計算を実施し、以下の知見を得た。まず、ジルコニアでは表面格子酸素の塩基性のため、担体から白金族クラスターへの電子供与が見られた。これは白金族クラスターからNOへの電子供与を促進し、NO解離を容易にする。対してセリアでは白金族から担体へ電子が供与されて、一部のCeの4f軌道に局在するが、この電子はNO吸着や解離のために使用されていなかった。そのため、セリアよりもジルコニアに担持した白金族クラスターが、より高いNO解離活性を示した。これは、実験で測定された白金族三元触媒のNO解離活性の傾向と一致しており、実際、NO解離遷移状態のエネルギーが、NO転化率50%到達温度と概ね相関することを確認した。サイズ効果については、PdやRhのサイズ依存性が類似しているため、クラスターサイズによらず一定の担体依存性が見られることがわかった。これらの結果は、比較的単純なモデルを用いた電子状態計算によっても実験の傾向を再現できることを示唆しており、触媒の理論研究を進めるための礎となる重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の研究により、比較的小さな触媒モデルに対する密度汎関数法レベルの量子化学計算によっても、実際に実験で測定された触媒活性の傾向をある程度再現できることがわかった。また、三元触媒における担体効果は、「塩基性」や「電子供与」など化学の基礎概念によってある程度説明できることが確認できた。テクニカルな面では、貴金属を担持したセリア系において3価Ceサイトの分布によるエネルギーの違いがみられており、ジルコニア担持系との比較が難しくなる問題があったが、慎重に電子状態を収束させることにより、分布依存性は定性的には無視できることを確認した。これらは、今後の研究を進めるための礎となる重要な成果であり、本研究課題は順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に実施した担持白金族4量体および10量体に対する密度汎関数計算により、NO解離活性がクラスターサイズにどのように依存するのか傾向が見えてきた。2019年度以降はまず、この予想が正しいかどうか検証するため、20原子程度の比較的大きなクラスターを担持したモデルについて密度汎関数計算を実施し、金属・担体間の電子授受の様子や、NO解離活性を調べる。また、クラスター上部と接合界面近辺でのNO解離活性の違いを調べて、担体効果がどの程度の範囲に及ぶのか明らかにする。さらに、(100)や(111)ファセットなど、活性点微細構造の違いによる活性の変化を調べる。これらの計算から得られた知見をもとに、白金族三元触媒における担体効果・サイズ効果・構造依存性を最適化するための指針を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度における主な支出として、外部の大型計算機利用にかかる利用負担金を予定していたが、研究室内の計算機演算力に予想以上の余力があり、外部の計算機を利用することなく本研究を遂行できた。そのため利用負担金が発生せず、助成金に未使用分が生じた。2019年度については、九州大学情報基盤研究開発センターの研究用計算機システムを既に利用開始しており、そのための利用負担金に未使用分を充当する。
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