研究課題/領域番号 |
18K04937
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
若家 冨士男 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60240454)
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研究分担者 |
村上 勝久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (20403123)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 磁気力顕微鏡 / ナノ金属探知機 |
研究実績の概要 |
本研究は,磁気力顕微鏡(MFM) で用いられる磁化した探針の振動と非磁性金属との相互作用を利用した「絶縁体中に埋もれた金属の探知法」を確立し,その検出限界を明らかにすることを目的としている。この技術は,絶縁体中に埋もれている金属を非破壊・非接触でナノメートル精度で容易に検出するものであり,半導体集積回路の配線層の検査等に応用できる。さらに,半導体中の不純物濃度も非破壊・非接触で計測できる可能性があり,極めて興味深い。 本年度は,まず,小振幅かつ低周波数のプローブの振動が,1枚の非磁性金属薄膜と相互作用するのときの理論を確立し,実験結果とともに,Appl. Phys. Lett. に論文を出版した。この論文は,Editor’s Pick に選ばれ,注目度の高い論文となった。その論文では,共振周波数で励振した磁気力顕微鏡のプローブを,非磁性金属に,距離 zまで接近させると,振動の位相が,z^{-4} に比例して遅れることを理論的に明らかにしている。実験結果とフィッティングすることによりその比例係数を求めると,その金属薄膜の抵抗率を非接触で求めることができる。あるいは,抵抗率が予めわかっている金属薄膜を用いれば,その実験からMFMプローブの有効磁気モーメントを決定することができることも明らかにした。さらに,共振数端数から少しずらしたところに,感度を最も大きくできる最適励振周波数が存在することも議論した。また,検出できる金属のサイズの下限は,プローブ高さ程度であることも明らかにした。このあたりの実験的な検証が今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要のところに記述した通り,小振幅かつ低周波数のプローブの振動が,1枚の非磁性金属薄膜と相互作用するのときの理論は確立した。実験結果ともよい一致を示している。Appl. Phys. Lett. 誌の Editor’s Pick にも選ばれ,順調に成果が出ている査証である。次の課題は,周波数が大きくなったときや,大振幅のとき,あるいは,複数の金属薄膜が存在するときの理論の確立と実験での検証である。周波数が大きくなると,金属中に発生するうず電流のインダクタンスを考慮する必要がある。インダクタンスを考慮したときの渦電流の分布については,すでに理論的な検討を始めており,応用物理学会(2018年9月)や International Microprocesses and Nanotechnology Conference (2018年12月)で報告した。このうず電流の分布の変化がMFMプローブの運動に与える影響については次年度以降の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況のところにも記述したとおり,2018年度に,金属薄膜中のうず電流に対するインダクタンスの効果については,応用物理学会(2018年9月)や International Microprocesses and Nanotechnology Conference (2018年12月)で報告した。しかし,そこで報告したのは,「インダクタンスの効果を考慮したときのうず電流の分布の変化について」であって,まだ「うず電流の分布が変化したことによってMFMプローブの運動(振動)がどのように変化するのか」は明らかにできていない。実験結果と理論とを比較するためには必須の検討課題であり,次年度以降に残された課題である。解析的な解を求めるのが困難なときには数値計算を進める。また複数枚の金属薄膜が存在する場合には,金属薄膜間の相互作用も考慮する必要があり,そこも次年度以降の課題である。実験としては,検出できる金属薄膜のサイズの下限や複数枚の金属薄膜の場合の実験を進める計画である。
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