熱電発電素子の適応範囲はいまだ限定的であり、適応範囲を拡大するためには、既存材料とは異なる利用価値の材料を開発する基礎研究の取り組みが必要である。従来、アモルファス材料は移動度やゼーベック係数が低いため、熱電材料への応用には不向きであると考えられてきた。しかし、InGaZnOなどの透明酸化物半導体はアモルファス状態でありながら比較的高い移動度があるため、新しい熱電材料としての候補になり得る。本研究では、アモルファス酸化物半導体の熱電特性の改善とデバイス応用に取り組んだ。 InGaZnOの組成比を変更した膜や、InGaZnOより比較的移動度が高いInWZnOやInSnZnO薄膜などについて熱電特性を評価した。ホール移動度の上昇とともに熱電性能(パワーファクター)が上昇することを確認し、高移動度材料の開発が熱電特性改善に有効であることが分かった。しかし、既存のアモルファス酸化物材料では、十分な移動度に到達しておらず、さらに高移動度なアモルファス酸化物材料の開発が今後必要とされる。また、InGaZnOのアモルファス状態と微結晶状態の薄膜において、それぞれ特性を評価した結果、微結晶膜では水素アニールによって生じる水素ドーピングの影響がキャリア密度制御に重要であることが分かった。しかし、アモルファス状態と微結晶状態の膜では、熱電特性に大きな差はなく、微結晶化プロセスは重要ではないことが分かった。一方、InGaZnO薄膜トランジスタ構造を用いゲート電圧印加した場合、InGaZnO薄膜の蓄積層における熱電特性は、様々な条件で成膜した薄膜自体の特性より向上することが明らかとなった。さらに、発電デバイス応用に向けて、酸化物半導体薄膜を用いたトランスバース型の発電素子を考案し発電を実証した。
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