本研究課題の目的は、強誘電相近傍における超伝導の発現の有無と超伝導特性への影響を調べることである。強誘電相に極めて近い物質であり量子常誘電体として知られるSrTiO3を、強誘電相転移を示すCaドープSrTiO3に置き変えた試料について、LaAlO3/CaドープSrTiO3界面の二次元超伝導層に発現する金属伝導や超伝導に対する強誘電性揺らぎの効果を調べた。また、強誘電性特性をもつ新たな2次元層状物質の物性を開拓するために層状オキシハライドの研究にも着手した。 今年度は、常伝導状態の抵抗率の温度依存性や磁気抵抗率などの測定と解析を行った。界面の金属的に伝導している電子が基板の強誘電性の影響を受けていることが明らかとなり、超伝導特性にも影響を与えていることが示唆された。本研究はジュネーブ大学との共同研究として遂行しているが、今年度はCOVID-19の影響によりジュネーブ大学へ赴いて実験をすることができなかった。幸いなことに主要な実験データはほぼ取得済みであり、データ解析や論文作成についてオンラインで議論を行い、成果をまとめる作業を進めた。当初の申請書の研究計画には記載してないが、海外渡航せずに行うことができる実験として、2次元層状オキシハライドNbOBr2の単結晶合成と物性についての研究を並行して進めた。単結晶合成に成功し、デバイス試料を作成して誘電特性を調べた。本物質の誘電率はTiO2に類似する高誘電特性を示すことが明らかとなった。今後、キャリアドーピングによる伝導特性の制御を試みる。他の試料も探索しながら、本研究課題の「強誘電相近傍における超伝導の発現の有無と超伝導特性への影響を調べる」という主目的に沿った研究を行った。
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