研究課題/領域番号 |
18K04943
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
大越 康晴 東京電機大学, 理工学部, 准教授 (10408643)
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研究分担者 |
本間 章彦 東京電機大学, 理工学部, 教授 (20287428)
福原 武志 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20359673)
宮田 登 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 副主任研究員 (40465985)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | DLC:N / 細胞機能 / 内膜化 / sp3/sp2 |
研究実績の概要 |
2018年度は,窒素含有DLC(DLC:N)としてDLC膜中に存在する窒素が細胞機能に与える影響を明らかにするために,マウス由来の線維芽細胞を用いて,細胞接着性および増殖性を評価した.DLC:Nは,CH4とN2の混合ガスを原料として高周波プラズマCVD法により成膜し,成膜時にN2流量比を変化させることで,DLC膜中の窒素含量を制御した.その結果,細胞の初期接着(播種後24時間)では,窒素含有による有意な差は認められなかったが,72時間後の細胞増殖において有意な差が見られ,N2の混合比によって,DLC:N表面は,細胞接着促進と抑制機能を示すことが認められた. このDLC:Nについて,中性子反射率(NR)測定,X線吸収微細構造(NEXAFS)分析,X線光電子分光(XPS)分析,接触角測定,レーザーラマン分光(Raman)分析,および分光エリプソメトリ分析を行い,表面層(表面状態)とバルク層(膜構造)を評価した.その結果,N2の混合比の変化に伴い,DLC:Nの表面層における散乱長密度,官能基の形成,sp2/sp3比率,表面粗さ,接触角と,バルク層における結晶性を示すID/IG比率と光学特性(屈折率と消衰係数)が変化することが認められた. これは,DLC:Nの基本物性(バルク層)の変化に伴い,表面層が細胞増殖性に強く作用することで,DLC:Nの表面機能として細胞増殖促進および抑制を示している.これらの結果より,DLC:Nの基本物性(主としてsp3/sp2構造比)によって,細胞機能を制御できることを確認している.また,作製したDLC:N表面は,細胞増殖性と合わせて生体内環境下での内膜形成を確認しており,良好な血液適合性が示されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度となる2018年度は,窒素含有DLC(DLC:N)について,窒素含有量によって細胞増殖機能を制御し,細胞増殖促進型および抑制型の成膜技術を確立した.また,DLC:Nの基本物性評価として,中性子反射率(NR)測定,X線吸収微細構造(NEXAFS)分析,X線光電子分光(XPS)分析,接触角測定,レーザーラマン分光(Raman)分析,および分光エリプソメトリ分析から,各種DLC:Nの表面層(表面状態)とバルク層(膜構造)の物性評価を確立し,予定通り,基本物性と細胞増殖性を評価できた. 更に,本研究の評価対象であるDLC:Nの細胞親和性の位置付けを明らかにするために,基本物性(主としてsp3/sp2構造比)が異なるDLCをそれぞれ,イオン化蒸着法,DCパルスCVD法,高周波プラズマCVD法,HiPIMS法にて成膜し,これらとの比較評価の準備を整えるなど,従来の予定よりも拡張した形で,評価系を整えられている. 細胞増殖性およびDLC:Nの物性評価から得られた知見を基に,血漿タンパクの吸着性についても評価系が構築されており,従来の計画よりも拡張した形で研究を進めている状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は,窒素含有DLC(DLC:N)としてDLC膜中に存在する窒素が細胞機能に与える影響を明らかにするために,マウス由来の線維芽細胞を用いて,細胞接着性および増殖性を評価した.2019年度は,これらの知見を基に,産業応用として活用されている各種DLCについても細胞評価を行い,DLCの基本物性として生物学的指標を明らかにする。 また,DLC:Nについては,それぞれの窒素含条件に対し,血漿タンパク質の吸着性を評価し,上記DLCの基本物性と合わせて,血栓形成反応を抑制する因子として,血漿タンパク吸着性に対するDLC:Nの窒素含有効果を明らかにする。 また,細胞評価とタンパク質吸着評価における最適化の観点から,DLC:Nの物性を明らかにし,生体内環境(山羊の下行大動脈部に留置)にて,病理組織学評価による血液接触面の内膜形成および,生体親和性を評価する. これらの指標を基に,DLC:Nの物性が,生体内環境下における生体機能(血栓形成や内膜化)に与える生物学的な影響の解明に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費および旅費について概ね計画通りの使用額であるが,当初の予定していた研究打合せを複数回纏めて実施できたため,旅費交通費に一部差額が生じた.
本差額分は,H31年度以降の旅費交通費および物品費に充てる。
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