有機半導体における分子のドーピングメカニズムの解明は、有機半導体の低い導電率を改善し、高機能な有機デバイスを作製するための新たな手法の開拓において、必要不可欠であるにもかかわらず、無機半導体のドーピングと比べてほとんど理解が進んでいない。本研究ではグラフェンなどの低次元材料をはじめ、高分子のような単一分子鎖にも適応可能な化学修飾を利用した新たな光ドーピング手法の構築を目指し、メカニズムの解明とその原理構築のための基礎研究を行った。また、光ドーピング手法では光が照射された場所だけをドーピングできるため、局所的なドーピングを可能とする。一次元高分子鎖として、ポリアセチレン高分子の側鎖に硫化メチル基が化学修飾されたPATAC-Me[poly(bismethylthioacetylene)]塗布膜をシリコン基板上にドロップキャスト法で作製し、大気中で光照射を行い、光酸化ドーピングを行った。放射光を利用して、得られた試料の光ドーピング前後の電子状態について、申請者が発案した共鳴オージェ電子分光(RAS)法による伝導帯状態密度計測を行った。PATAC-Meの光酸化ドーピング前後のRASスペクトルの励起X線エネルギー依存性データを用いて、エネルギー分散状態等の詳細解析を行い、非局在化した伝導性の成分だけを選別したスペクトルの取得に成功した。本研究により、有機半導体の光酸化ドーピングによって、無機半導体の伝導メカニズムと同様のバンド伝導を発現することが明らかとなった。
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