研究課題/領域番号 |
18K04949
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
池田 慎吾 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (60511152)
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研究分担者 |
小林 靖之 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究室長 (00416330)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 硫化モリブデン / 電析 / リチウムイオン電池 / 正極材料 / 水素発生 / 電極触媒 |
研究実績の概要 |
電析硫化モリブデン皮膜の析出重量、膜厚、組成等に及ぼす支持電解質の種類や電析温度、電位、電流密度等の影響について調べた結果、析出皮膜の組成や膜厚は、これらの電析条件には大きく影響を受けないことがわかった。標準条件の電析により成膜した硫化モリブデン皮膜の硫黄/モリブデン比は約4であり、X線回折測定の結果から、非晶質構造を有していることがわかった。イオンミリング法により電析硫化モリブデン皮膜の断面を加工し、電子顕微鏡により観察した結果、膜厚は約0.8μmであった。皮膜重量と膜厚の関係から算出した硫化モリブデン皮膜の密度は2.5 g/cm3であり、二硫化モリブデン(5.1 g/cm3)や三硫化モリブデン(3.2 g/cm3)の文献値に比べて低い値であったことから、高いS/Mo比によって空隙の多い結晶構造が形成されていることが示唆された。 得られた硫化モリブデン皮膜を正極とし、対極にリチウム箔、固体電解質として高分子電解質フィルムを用いてリチウムイオン電池正極特性を評価した結果、60℃において現行のリチウムイオン電池用正極材料のコバルト酸リチウムの実効容量(約150 mAh/g)を大きく上回る容量(約500 mAh/g)を示した。繰り返しの充放電反応も安定しており、電析法により作製した硫化モリブデン皮膜と高分子電解質フィルムを用いた全固体リチウムイオン電池が良好に動作することが新たに示された。 また、GC電極上に電析した硫化モリブデン皮膜を用いて、硫酸水溶液中における電気分解による水素発生挙動を比較した結果、良好な電極触媒特性を発揮することが示された。検討した中で、通電量が最も低く、薄い電析皮膜において最も水素過電圧が抑制される結果となった。これらの結果から、本手法により作製した硫化モリブデン皮膜は種々のエネルギーデバイスにおける要素部材として有用であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アノード電析法により硫化モリブデン薄膜を成膜する条件を確立し、作製した硫化モリブデン薄膜が、液系のみならず、ガラスセラミックス型および固体高分子型の全固体リチウムイオン電池用正極として機能することを実証し、いずれも優れた容量特性やサイクル特性が発揮されることを明らかにした。また、硫酸水溶液の電気分解反応における水素発生電極としても機能し、薄膜構造と水素過電圧の関係の一部を明らかにできたことから、研究計画としては概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、析出皮膜の構造と電極特性に顕著な影響を及ぼす因子の発見に注力する。具体的には、硫化モリブデンと合金化することが知られている銅などを第三元素として添加し、電析法による析出皮膜の構造制御に取り組む。また、作製した薄膜を使用して薄膜型全固体電池、ナトリウム電池、多価カチオン電池への応用の可能性について、さらには、水の電気分解反応における水素発生用電極への応用の可能性についても引き続き検証を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、電析試料の作製ならびに電極特性評価に使用する物品を購入し、試料作製と電極特性の評価に注力した。実験内容の効率化やコロナ禍に伴う実験予定の延期などにより、当初予定よりも消耗品費が低減された他、学会発表等に予定していた旅費等を繰り越すこととしたため、次年度使用額が発生した。次年度の予算は、これまでの研究経過を受けて、補完が必要な部分を中心に研究を遂行する。主として実験ならびに試料評価用の物品購入費ならびに成果発表に係る費用に充当する予定である。
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