研究課題/領域番号 |
18K04951
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
清水 洋孝 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (10448251)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 極低温 / 温度計 / バイメタル / 光ファイバ |
研究実績の概要 |
当該年度の主な研究目的は、極低温環境下において、温度感受部分であるブラッググレーティング付き光ファイバーに機械的な活性を与える事で、環境温度の変化を光の波長変化に変換させる事を促すために必要となる、バイメタル合金の特性の把握と、実用化に向けた製造の検討であった。常温から極低温環境に移行するに従い、素朴な熱的な活性を失う事で、環境温度の変化に対する有効な応答が得られなくなる中で、歪みの自由度と光ファイバーからのクラッドモードの組み合わせを利用する事で、温度計としての機能を保持するために必要不可欠な素子としてバイメタル合金を位置付けているが、多様な温度特性を持つバイメタルの試験片を数多く入手して、最適な物を選び出す作業が必要であった。選定には、歪みゲージを用いた表面形状の変化の測定の手法を用いた。熱膨張率の異なる、伸張面側と収縮面の両面に貼り付けた歪みゲージからの信号を、常温時と極低温時で比較する事で、冷却後のバイメタル合金が、意図した通りの振る舞いをしているかどうかについて、測定を繰り返した。このバイメタルの冷却後の振る舞いは、本研究の構想を支える非常に重要な要素である事から、様々な測定結果の組み合わせを用いて、望み通りの伸縮を再現性良く繰り返している事を確認した。この伸縮の状態を調べる低温測定を繰り返す間に、歪みゲージを光ファイバに見立てる事で、バイメタル合金の変形に必要な熱量を見積る測定へと転用できる可能性にも気付く事が出来た。歪みゲージのセンサ部分の電気抵抗は非常に正確に計測出来る為、発熱に必要な熱量を測定するに適している。これらの計測から、光ファイバに必要とされるクラッドモードの光量の推定を進める事が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で開発を目指している、極低温温度計の主要な構成要素の一つである、バイメタル合金の特性の把握と使用に適した製品の開拓を主に行ってきた。最初の低温試験に試験的に用いた市販品の製造が停止され、入手が困難になったため、他の試験品の開拓が必要となった。また、温度計の使用に適した試料大きさは小さい為、冷間圧延で製造される大きな製品を購入する事は費用的にも難しいため、この点が問題となり、数多くの試料を実際に試して試験を行う事が難しかった。バイメタル合金の試験片の温度特性を変化さながら、熱膨張率の異なる合金の組み合わせを探す必要があるため、厚みを機械研磨等で変化させながら、低温での試験を繰り返す作業に時間がかかり、進捗としては遅れが生じている。同時に、光ファイバをバイメタル合金表面に固定するための、極低温でも使用実績のある接着剤の選定にも取り掛かっており、何種類かの接着剤に関して、線材の固定などを実際に行う事で、その特性の把握を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、極低温の温度領域においても感度を失わない、これまでに無い動作原理を利用した温度計の開発を目標としている。この研究課題で用いる動作原理に関しては、これまでに学会や研究科の場で議論を行ってきたが、理論的な合理性や整合性の点に関して、批判的な意見も数多くあった。それらの貴重な反論に対して、論理的な説明を返す事が重要であるが、実験的に実証して、構想時に考えていた通りの温度計が実際に出来ているかどうかを確かめる事も、一つの検証の方法と考えられる。まずはこれまでに行ってきた光ファイバとバイメタル合金の個々の選定の結果を組み合わせて、一つの温度計として機能させ、極低温温度環境でのその振る舞いを実験的に観測する事で、課題研究を進めていく予定である。これまでは大型冷凍機を用いて液化されたヘリウムの使用を想定して実験環境の整備を進めてきたが、ヘリウムを使わない小型冷凍機の使用も視野に入れながら、どの方法が最も簡易的に極低温環境を作り出す事が出来るかを検討しながら、今後の冷凍試験と作製した温度計の評価を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
バイメタル合金の試験片の作成費用を計上していたが、冷間圧延による製造では、一回の圧延で出来るバイメタル合金の量が多く、また高額な費用が掛かる事が解った。このため、いろいろな金属の組み合わせでバイメタル合金を作製して、その温度特性を測る当初の計画を実行する事が難しくなった。結果的に、手元に残っていた、市販のカタログ品のバイメタルを、機械加工で厚みを削る事で、その反り具合を変化させる方法を採らざるを得ず、試作費として計上していたバイメタル合金の購入代金が次年度に繰り越される事となった。引き続きより低額でバイメタル合金の圧延を引き受けて貰える企業を探しており、支払い可能な額での製作が依頼出来る様になれば、この繰り越した資金を用いて圧延を依頼する予定である。
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