研究課題/領域番号 |
18K04952
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
安居院 あかね 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員(定常) (20360406)
|
研究分担者 |
櫻井 浩 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80251122)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | コンプトン散乱 / 光渦 / 角運動量 / X線 |
研究実績の概要 |
本研究はX線領域の光について、コンプトン散乱を用いて光渦度の測定を行うものである。光のもつ軌道角運動量、光渦、はレーザー物理においては既に発生方法が確立され、研究は幅広く展開されている。これに対しX線領域の光では、10年ほど前にシンクロトロン放射に光渦が含まれていることが理論的に示されて以来、実証研究が始まったばかりである。現在、光渦は光の強度の分布として測定する方法が主流である。 コンプトン散乱では光が軌道角運動量をもてば、インパルス近似によって「運動量」として観測され、光渦の角運動量がコンプトン散乱X線スペクトルのピークシフトとして観測されると期待される本申請は、X線領域の放射光について光渦をコンプトン散乱ピークのシフトとして検出する方法を提案する。 本研究期間中においては、大型放射光施設SPring-8の挿入光源から放射されるX線の軌道角運動量(円筒座標系で考えたときのラゲールガウシアン光の渦、およびそれと一次結合で共役な関係にあるエネミートガウシアン光のノード)について、コンプトン散乱における運動量の保存を見出すことを第一段階とし、円偏光成分の軌道角運動量の量子数が示す光渦度の検出を実証する。この方法は特殊な光学素子を必要としないので波長を問わずに利用することが可能である。本研究により広いエネルギー領域でのX線の軌道角運動が簡易に評価できる”光渦度測定装置”が開発されれば、光のトポロジーをプローブとした新たな物性研究分野を切り開くことができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度はSPring-8のBL08W用挿入光源からのX線を入射光とし、ターゲットをAg, Au, Feなどとし、コンプトン散乱を測定し、測定条件の検証を行った。また、入射光のエネルギーを変え光の条件の確認を行った。初年度にコンプトン散乱用の検出器の位置調整用架台を製作する計画であったが、測定条件の確認を先に行うのが有効であるとしたため、架台の製作が遅れた。 この間、理論家との議論を進めることができた。ラゲールガウシアン光は円筒座標系で表される。これに対し、直交座標系で表されるエルミートガウシアン光は、ラゲールガウシアン光とは一次結合の共役な関係にある光である。ラゲールガウシアン光の渦度は、エルミートガウシアン光のノード数に相当する。このノード数もコンプトン散乱で保存されることが予測される。理論計算によりエルミートガウシアン光のノード数とコンプトン散乱X線スペクトルのピークシフト及び強度変化を見積った。これにより、定量的な見積りを行うことができた。これは当初計画ににない大きな進展であった。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、コンプトン散乱の検出位置を調整する可搬型の検出器用架台を製作する。コンプトン散乱実験を、まず大型放射光施設SPring-8のBL08W及びBL37XUで実施する。挿入光源から放射されるX線を試料に入射し測定を行う。測定は室温で行う。光の次数によりノード数が変わるので、同じエネルギーで次数の異なる入射光を使うことでノード数の変化を観察する。実際には散乱体からは蛍光成分も放出されるのでそれを避け効率よくコンプトン散乱のピークシフトを測定できるように、電子数の異なる試料(Al, Cu, Au, Agなど非磁性単体金属)を複数用意する。本研究では散乱角0度、45度、90度の位置に検出器を置きシングル検出器を用い測定する。測定結果は速やかに、理論計算の結果と比較し議論を進める予定である。さらに実験結果を受けて、追加実験を実施することも考えている。実験の他に、物理学会、放射光に関する国際会議などの場で情報収集も進める予定である。実験結果の解析が進み次第、論文の執筆を開始する。この方法は特殊な光学素子を必要としないので波長を問わずに利用することが可能である。将来的には本研究を発展させ広いエネルギー領域でのX線の波動関数の状態を評価できる測定装置を開発し、光のトポロジーをプローブとした新たな物性研究分野を切り開きたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度で予定していた架台製作を次年度にしたため。
|