研究課題/領域番号 |
18K04958
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
宇野 和行 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (90294305)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | α型酸化ガリウム / ミストCVD法 / ドーピング技術 / 結晶成長 / 量子井戸構造 / パワーデバイス / 深紫外デバイス |
研究実績の概要 |
パワーデバイス用半導体材料として注目されているα型酸化ガリウムについて,ドーパントの振る舞いを中心とする導電物性,そして量子井戸がもたらす光学物性について探求することを目的に研究を進めた。成長手法は,京都大学の藤田静夫教授の考案された非真空成長法であるミストCVD法である。これは,金属イオンを含む原料水溶液をドライミスト化することでガスのように取り扱えるようにした結晶成長手法であり,良好な酸化物半導体薄膜の結晶成長が可能であることで知られている。本研究で目指すものは,導電物性についてはスズ原子の失活のメカニズムおよび新規なドーピング技術の開拓,光学物性については量子閉じ込め構造による深紫外発光の実現である。実験および第一原理計算の両面からのアプローチで進めていく。 研究初年度である平成30年度に取り組んだのは,結晶成長装置の自動化である。自動化していないミストCVD成長では,原料水溶液の水温上昇や,バルブ開閉タイミングにより成長ごとの差異が出やすい。完全自動化をまず行ったのは,実験再現性の向上を図ることが研究全体の成否を分けると考えたからである。また,量子井戸構造を制御よく,また再現性良く作製するためには自動化は欠かせない。標準的な結晶成長装置システムが市販されていないミストCVD法では,これらを自作する必要があった。マスフローメーターによる流量調整の自動化,ヒーター制御の自動化,ミスト発生装置のリモート制御によって,複雑な成長シーケンスをばらつきなく再現できるようになった。 初年度の成果は,深紫外受光素子を作製し,バンドギャップ以下のエネルギーの光吸収物性を実験的に明らかにしたことと,自動化によって厚さ1.3um,表面凹凸1-2nm程度の平坦度を有する薄膜の結晶成長に成功したことである。良好な結晶が得られた理由として,独自に行なった転位低減法が有効であった可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結晶成長装置の自動化は,研究課題開始後半年程度,10月-11月に完成させる予定であった。しかし,装置間の通信方式の不整合等の問題があり,システムの見直しを2回行った。このせいで研究に遅延が発生し,完成に至ったのは1月に入ってからであった。現在は装置上の問題はほぼ解決されている。
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今後の研究の推進方策 |
結晶成長装置はほぼ完成の域に達したので,今後は研究計画どおり不純物添加と導電物性,および量子井戸構造と光学物性に関する検討に取り組んでいく。 【不純物添加と導電物性】 不純物添加を行っても結晶性が良好でなければ散乱によって導電物性が損なわれ,ドーピングメカニズムの解明とそれに対する問題解決ができなくなってしまう。α型酸化ガリウムはc面サファイア基板との間のa軸格子不整合度が4.5%程度と大きいため,これを克服する必要がある。初年度の最後に見出した手法の有効性を今後確認していくとともに,オフ基板を用いて結晶性の改善が図れるかどうかを実験的に検討していく。ドーピングの活性化率と移動度の関係を基本に結晶性を評価し,SIMS, EXAFS測定等を通じて原子レベルでの不純物添加関連物性について検討していく。 【量子井戸構造と光学物性】 2系統以上の原料供給システムを構築し,高いレベルで制御した量子井戸構造の作製を進める。酸化ガリウムは比誘電率から推測されるエキシトン半径が非常に小さい。ここでは量子効果デバイスを狙うのではなく,量子閉じ込め構造による深紫外発光の実現可能性を模索する。すなわち,酸化ガリウムで生じていると言われている自己束縛励起子発光を抑制できるかどうか,またオフ基板上に形成した超薄膜構造による3次元閉じ込め構造の作製を狙う。これにより,ソーラーブラインド領域の受光素子用材料としてのα型酸化ガリウムだけではなく,発光素子用材料としての応用可能性を検討していく。
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