実施2年目の2019年度には,水溶液中のGaイオンのアセチルアセトナート錯体化で酸化ガリウムが単結晶成長すること,AlGaO混晶を成長するためのAlイオンのアセチルアセトナート錯体化には長い撹拌時間が必要であることを見出した。これら2019年度の結果を受けて,2020年度には,原料水溶液中のAlイオンの錯体化管理方法の確立,およびn型化のための安定なスズドーピング手法に注力して研究を行った。 Alイオンが水溶液中でアセチルアセトナート錯体化したことを検出するための方法としてFTIR測定を行った。しかし,希薄な水溶液であるため,水の赤外吸収ピークと重なると吸収ピークの変化が検出できなくなってしまう。また,ガラス板に水溶液を挟み込む通常の方法だと,水溶液の実効的な厚さの測定ごとのばらつきが再現性に与える影響が無視できないことが分かった。そこで,まずイオン濃度を成長時に採用している金属イオン濃度より5倍濃厚化した0.1mol/Lで測定するとともに,ATR法で測定再現性の向上を図った。その結果,錯体化が時間とともに進行する様子が明確かつ系統的に検出できた。その結果から,錯体化の進行は40-50℃程度に温めながら撹拌することで劇的に短くなることも見いだせた。 スズドーピングについても検討した。慎重に実験を重ねた結果,スズを添加していない酸化ガリウム薄膜からもスズ原子が検出されることが分かった。成長装置のセットアップを何パターンか変更してSIMS測定を重ねて行った結果,ミスト発生源であるガラスベルジャの内側に酸化スズが残留していることが分かった。スズにはメモリ効果があるのである。対策として,ベルジャの内側をフッ素樹脂でコーティングしたり,ベルジャをガラス製からポリ製に変更することを考えている。
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