研究課題/領域番号 |
18K04961
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
横山 悦郎 学習院大学, 付置研究所, 教授 (40212302)
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研究分担者 |
古川 義純 北海道大学, 低温科学研究所, 名誉教授 (20113623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 結晶成長速度 / 自発的振動 / 氷結晶 / 過冷却水 / 不凍糖タンパク質 / 不純物効果 |
研究実績の概要 |
国際宇宙ステーションで行われた不凍糖タンパク質存在下の過冷却水中で成長する氷結晶の実験において、成長速度が不純物によって促進される現象が確認された。結晶成長における不純物効果を説明する唯一のモデルは、結晶の成長が抑制されるモデルである。分子的尺度で平坦な表面の結晶は、1分子層の段差であるステップ列の前進によって成長する。抑制モデルでは、ステップのエッジに吸着した不純物分子は、ステップの移動のピン留めとして働く。 本研究では、不純物効果による氷結晶成長速度の促進と、それに伴って発生する成長速度の自発的振動のメカニスズムを解明する。 そこでは、氷界面に吸着した不凍糖タンパク質が成長ステップ列とどのような相互作用をするのかを議論し、このメカニズムを組込んだ新しい数理モデルを構築する。 更に、成長抑制を前提とする不純物効果と本研究で新たに構築する成長促進を前提とする不純物効果の比較検討により、氷のみならず一般の結晶成長に対する不純物効果を統一的に理解する。 2年度目実績として初年度に提案したモデルの改良版は次のとおりである:AFGP分子の大きな特徴として次の3つが既知である:1) 分子のサイズは、成長単元である水分子に比べて十分に大きい、2) 氷/水界面での吸着分子は親水基と疎水基で特徴付けられる構造を持つ、3) 氷のベーサル面は、成長ステップの運動 による層状成長をしており、氷ベーサル面の成長速度の急減とステップ挙動とが関連している。そこでは、ベーサル面の成長速度は、2つのベーサル面に挟まれた面(例えばプリズム面)に吸着した AFGP 分子によって、ベーサル面のステップ源として働いて成長が促進される。一方、挟まれた面はベーサル面に吸着した AFGP 分子によって成長を抑制されるプロトタイプ・モデルを提案した。更にこのモデルで、振動が起こることを数値解析で確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
微小重力環境における AFGP を 含む過冷却水中での氷の成長の素過程は、1) 氷界面において発生する結晶化熱を過冷却 水及び氷結晶へ逃す熱拡散過程、2) 氷界面において水分子を氷結晶に取り込む過程である界面カイ ネティックス、3) 氷結晶に取り込まれない AFGP 分子を氷界面から過冷却水へ排除する拡散過程、 4) 氷の成長界面上での AFGP 分子の吸着挙動、これら4つの素過程からなる。 成長速度の時間変動については、古くからその存在の予測はあったものの、原因は成長条件の変動という外因説と推測され、その詳細な原因は不明なままであった。国際宇宙ステーションでの実験は、振動成長を実際に観察・測定でき、その原因がシステムに内在することを初めて示した(内因説)。そこでは、先ほどの4つの素過程が組み合わさった効果が働いていると考えられる。 現在までベーサル面に挟まれた面に吸着した AFGP 分子が、ベーサル面のステップ源として働くことでベーサル面の成長が促進され、挟まれた面はベーサル面に吸着した AFGP 分子によって成長を抑制されるプロトタイプと言うべき数理モデルを構築した。更にこのモデル方程式を数値解析的に解いて、振動が起こることを確かめている。 この数理モデルが進展始めたのは、1月からであり、その後十分な議論に至っていない。新型コロナパンデミックにより年度末の出張・議論が全て取りやめになったことも大きい。モデルでは、ベーサル面の成長振動は安定に続くか、または減衰していく。一方、実験では振動成長モードと無振動成長モードが繰り返す。我々の数理モデルは、一旦減衰すると、再び振動モードへは復活しない。この違いは、本質的な内容を含んでおり興味深い。何がきっかけで振動モードが起こるのであろうか?「やや遅れている」との評価は、この問題が未解決であることによる。
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今後の研究の推進方策 |
ベーサル面に挟まれた面に吸着したAFGP分子が、ベーサル面のステップ源として働くことでベーサル面の成長が促進され、一方、挟まれた面の成長はベーサル面に吸着したAFGP 分子によって抑制されるというプロトタイプであるが数値解析による検証ができる数理モデルを構築した。しかしながら、この数理モデルが正しいかどうかは、今後の議論に依存する。またこのモデルに固執することなく、全てを再構築する勇気をもって、実験と理論の融合に観点から、議論を深めていく。 モデルではAFGP分子を不純物として含む過冷却水中で氷の成長界面上でのAFGP分子の挙動は、ベーサル面とそれ以外の面では大きく異なると仮定した。しかいその微視的ダイナミックスについては、まだ何も描像が出来ていない。今後、氷結晶の成長の素過程である水分子を氷結晶に取り込み過程である界面カイネティックスと、氷の成長界面上でのAFGP分子の挙動を組み合わせた微視的ダイナミックスの議論を深めていく。 そのためには実験結果の再解析も必要と考えられる。また、国際共同研究として米国カーネギメロン大学名誉教授セカーカ博士との議論する計画である。しかしながら、現状では、オンライン会議で議論するしかない。東京―札幌間の研究打ち合わせ出張も現状では、休止中である。新型コロナパンデミックによる、研究計画の見直しが現在進行中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的な新型コロナパンデミックにより昨年度末の出張・議論が全て取りやめになった。国内外での研究打ち合わせと研究発表が中止・延期になったことにより、必然的に次年度への使用の移行が起こった。6月初めの現状では、米国カーネギメロン大学セカーカ名誉教授との、海外出張による国際共同研究の見通しはたっていない。今年度が研究最終年度になるが、今年度中に海外出張が行えるか否か、パンデミックによる世界的情勢をみながら、使用計画を再構築していく予定である。東京―札幌間の研究打ち合わせ出張も、当面はオンライン会議で行う予定である。研究計画を来年度に延ばすことも視野にいれて、社会の現状分析を行い研究計画を再構築する。
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