研究課題/領域番号 |
18K04963
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
小島 信晃 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70281491)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 化合物半導体 / 層状化合物 / エピタキシャル成長 / 結晶成長 / 分子線エピタキシー / エピタキシャルリフトオフ / X線回折 / 結晶欠陥 |
研究実績の概要 |
本研究は、III-V族化合物半導体デバイスの大幅な低コスト化、フレキシブル化を目指して、In2Se3層状化合物バッファを介してSi基板上にGaAsをエピタキシャル成長し、層状化合物の劈開性を利用して、成膜したGaAs層の薄層剥離(エピタキシャルリフトオフ)することを目的にしている。課題はGaAs層の高品質化であり、本研究テーマでは、In2Se3の結晶方位が回転したダブルドメイン成長を抑制するため、微傾斜基板の原子ステップがIn2Se3の結晶成長過程に与える影響を明らかにすることを目指す。 本年度は、Si(111) 4度オフの微傾斜基板を用い、傾斜方向が[1 1 -2]方向、 [1 -1 0]方向のそれぞれの基板の場合のIn2Se3膜の結晶成長について比較した。成膜したIn2Se3膜の双晶の割合は、X線回折極点図をIn2Se3の(1 0 17)面で測定することにより評価した。In2Se3の(1 0 17)面は[111]を軸に3回対称に表れる。回転双晶が発生すると、この3回対称面が180度回転した位置でも観測されるため、双晶の割合が評価できる。また、In2Se3膜表面のモフォロジーは、原子間力顕微鏡(AFM)により観察した。その結果、Si基板の傾斜方向が[1 1 -2]方向の場合は双晶が観測できないのに対して、[1 -1 0]方向の場合は双晶が発生していた。AFMによる表面モフォロジーの観察から、表面の安定なステップは[1 1 -2]方向に沿って形成されており、傾斜方向が[1 1 -2]方向の場合は傾斜方向に沿って直線的なステップが形成されるが、傾斜方向が[1 -1 0]方向の場合には2方向の[1 1 -2]に沿ってジグザグなステップが形成されていることが分かった。したがって、傾斜方向の一方向に沿って結晶成長が進行することにより、双晶発生が抑制できたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、Si(111)微傾斜基板の傾斜方向がIn2Se3の結晶成長過程に与える影響を検討し、双晶のないシングルドメインでのIn2Se3成長を実現した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の成果により、In2Se3の双晶発生の抑制のためには、基板の傾斜方向が重要であることが明らかになった。令和元年度には、Si基板表面の水素終端の有無の効果について検討する。現在、成膜前のSi基板は、自然酸化膜形成を避けるため、基板洗浄後、HF処理により、表面ダングリングボンドの水素終端を行っている。この水素終端が、ステップ端からのIn2Se3の成長核形成をエンハンスしているとも考えられることから、水素終端の有無で、In2Se3の結晶成長がどの様に影響するか調べる。水素終端無しの試料は、成膜前に成膜チャンバー内でSi基板を600度程度の高温で加熱し、表面の水素を除去することで作製する。 一方、GaAsを分子線エピタキシー(MBE)法で高品質に成膜するためには、550度程度の成膜温度が必要であるが、成膜したIn2Se3はこの温度で構造変化し、二次元層状構造を喪失することが分かってきた。そこで、450度程度の低温でも高品質なGaAsが成膜可能な化学ビームエピタキシー(CBE)法で、In2Se3上へのGaAs成膜を試みる。成膜したGaAs膜の双晶の有無や結晶性をX線回折により評価し、GaAs膜の高品質化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
成膜装置が一部故障し、その修理費用に充てる予定であったが、修理部品の納期が当年度に納品できないことが分かり、修理を次年度にまわしたため、次年度使用額が生じた。 使用計画:平成30年度分からの次年度使用額は、予定していた成膜装置の修理の費用として使用する。
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