本研究は、III-V族化合物半導体デバイスの大幅な低コスト化、フレキシブル化を目指して、In2Se3層状化合物バッファを介してSi基板上にGaAsをエピタキシャル成長し、層状化合物の劈開性を利用して、成膜したGaAs層の薄層剥離(エピタキシャルリフトオフ)することを目的にしている。課題はGaAs層の高品質化であり、本研究テーマでは、In2Se3の結晶方位が回転したダブルドメイン成長を抑制するため、微傾斜基板の原子ステップがIn2Se3の結晶成長過程に与える影響を明らかにすることを目指した。 In2Se3の結晶成長方位をシングルドメイン化するためには、Si(111)微傾斜基板の傾斜方向が重要であり、傾斜方向が[1 1 -2]方向の場合にシングルドメインのIn2Se3膜が得られることを明らかにした。そのダブルドメイン成長の抑制メカニズムについては、[1 1 -2]方向傾斜のSi基板表面の原子ステップにおいて、SiとIn2Se3界面の原子の結合の自由度が一方向に制限され、その後In2Se3膜がステップフロー成長することにより、In2Se3膜のシングルドメイン化が得られたと考えられる。最終年度には断面TEM観察を実施し、SiとIn2Se3の界面には2~3nm程度の構造遷移層が存在することが明らかになった。界面の詳細な構造解析が今後さらに必要である。 また、In2Se3膜上にGaAsを成膜すると、約550度のGaAs成長温度にIn2Se3膜が耐えられず、In2Se3膜が構造変化し、2次元層状構造が維持できないことが明らかになった。そこで、In2Se3膜よりも耐熱性のある2次元層状物質GaSeをIn2Se3上に成膜してGaSe/In2Se3ダブルバッファ構造とすることで、その上にGaAsをエピタキシャル成長して、Si基板上から剥離できることを見出した。
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