研究課題/領域番号 |
18K04966
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
加野 裕 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (80322874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 屈折率計測 / 集束表面プラズモン / アミロイドβタンパク質 / 凝集特性評価 |
研究実績の概要 |
本年度は,集束表面プラズモンセンサーの試作装置を用いて,アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβタンパク質の凝集過程を,無染色で評価する手法の実験的検証を継続した.前年度の実験では,基板表面をアビジン修飾し,これに固定したビオチン末端アミロイドβ分子に対して,溶液中のアミロイドβ分子が凝集する過程の計測を試みたが,コントロールとなる,ビオチン修飾を行っていない基板表面に物理吸着するアミロイドβ分子の除去が課題となっていた.そこで,基板表面をリンスする条件や添加剤を変えて,物理吸着したアミロイドβの除去を試みた.しかし,その効果は十分ではなく,成功に至らなかった.そこで,溶液中に分散しているアミロイドβ分子の凝集体が沈下して堆積するときの堆積速度から凝集特性評価を試みた.この実験では,集束表面プラズモンを励起する基板を上方に向ける必要があるため,倒立型の光学系を構築した後.モノマーアミロイドβ含む溶液を,測定基板上に滴下し,励起される表面プラズモンの伝搬定数を測定しながら,基板表面近傍の屈折率の時間変化を求めた. この実験から,基板表面の屈折率の時間変化は,アミロイドβ凝集体の沈下,堆積を反映していると考えられる結果であったが,屈折率変化速度の再現性が低いことが分かった.その主たる原因は,超高開口数油浸対物レンズのイマルジョンオイルの変性だと思われたため,オイル交換を行いつつ,測定を行うための条件を実験的に確認した.この実験から得た,イマルジョンオイルを継続的に使用可能な時間,オイル交換による測定領域の変化などについての知見を基に,次年度において,凝集速度の評価実験を継続する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,ビオチン化させたモノマーアミロイドβを基板に固定し,これを凝集核とす凝集体の形成過程を計測する実験を予定していたが,コントロールの検証における問題が解決できなかったため,この実験を一旦中断させた.これに変わるものとして,溶液中に分散させたモノマーアミロイドβ分子の凝集体が沈下することで生じる堆積物を計測する実験へ移行した.この実験の結果,堆積物の形成に起因する思われる基板表面の屈折率変化を測定できたものの,堆積速度のばらつきが問題となった.最終的に,イマルジョンオイルを交換するタイミングを適正化することなどによって,堆積速度の評価は可能であるとの見通しを得たが,これを実験的に確認する段階で,表面プラズモンを励起する基板作製に利用していた3源マグネトロンスパッタリング装置に故障が発生した.そのため,予定通りに実験を進めることができず,進捗に少し遅れが生じた.
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今後の研究の推進方策 |
アミロイドβタンパク質の凝集特性評価については,今年度の知見に基づき,測定基板表面へ沈下する凝集体がもたらす屈折率変化の測定を継続する.新たに,凝集速度に対する影響因子である環境温度について,より適した実験条件を探索する予定である.アミロイドβタンパク質の凝集特性評価が可能であることを確認した後は,凝集阻害物質を添加し,その効果を検証する実験を推進する.また,アミロイドβ凝集体計測と同じアプローチで,認知症の原因関連物質として知られるタウタンパク質の凝集特性を評価も検討する.先行研究より,タウタンパク質は,アミロイドβタンパク質よりも凝集速度が速いことが知られているため,より再現性の高い結果が得られる可能性がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
表面プラズモンを励起する基板作製に利用していた3源マグネトロンスパッタリング装置に故障が発生し,装置の大がかりな修理が必要となった.これに,本年度予算の残額と次年度予算の一部を充当して対応することにしたため,次年度使用が生じた.
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