研究課題/領域番号 |
18K04967
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大野 誠吾 東北大学, 理学研究科, 助教 (70435634)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | モアレ / メタ表面 / テラヘルツ波 / 幾何学的位相 / イメージング |
研究実績の概要 |
モアレ型メタ表面は金属2次元周期構造を2枚重ね合わせるときにあえてずれを加えることで生じるモアレパターンに着目したメタ表面である。特にずれをベクトル場としてとらえたとき、その動的な制御手法とそれによるテラヘルツ波の制御について研究を進めている。本年度は、モアレ型メタ表面におけるベクトル場の変調手法、モアレ型メタ表面の評価に用いる光学系についてそれぞれ進展があった。 ベクトル場の変調手法について、これまで、2枚の2次元構造のそれぞれの面内での相対的な位置をずらすことで、変調できると考えてきた。しかし、その場合、動的に相対位置を変調するには、精密な位置合わせが必要であった。そこで、2つの周期構造が3次元的に重なっている場合、光の入射角を変えることで視差が生じ、見かけの相対位置が変わることから入射角に応じたモアレパターンが発生するという、視差によるモアレ着目した。テラヘルツ波にとって、視差によりベクトル場が変化すれば、入射角による変調が可能となる。このことを数値的に調べたところテラヘルツ波の入射角変化によるテラヘルツ波の円偏光変調が可能であることが分かった。 光学系に関して、前年度までテラヘルツ波の発生に非線形光学結晶を用いていたが、励起レーザーの老朽化により十分な励起パワーが得られなくなっており、測定に必要な十分な信号強度が得られていなかった。今回、発生に集積型光電導アンテナ(PCA)を用いることでテラヘルツ波の高強度化を図った。途中、励起レーザーの故障による実験停止といったトラブルもあったものの、現在、集積型PCAへの交換作業を終え、テラヘルツビームのイメージングができることまで確認済みである。 また、ベクトル場による幾何学的位相、メタ表面作成のためのメタルマスクといった本研究で培った関連領域では、それぞれを応用した共同研究へと進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目標では、測定系のテラヘルツ発生に非線形光学結晶から集積型光電導アンテナへ交換、光学系の調整、そのうえですでに作成済みのメタ表面に対して測定を行い、メタ表面の構造に対するフィードバックを行う予定であった。しかし、期間中、テラヘルツ時間領域分光装置の励起レーザーであるチタンサファイアレーザー(オシレーター)を構成するミラーにダメージが発生し発振が停止した。その交換とそれに伴うレーザーの調整をゼロから行う必要があったため、実験が進まない期間があった。何とか、光学系の調整のところまではリカバーできたがメタ表面に対する実際の測定までは進んでいない。ただ、実験が進まない間は数値シミュレーションを行うことで新たなベクトル場の変調原理(視差モアレ法)、およびそれによるテラヘルツ波の変調手法を見出すことができたことから当初想定していない進展もあったといえる。 一方、本研究から派生したところでは、ベクトル場による幾何学的位相の応用として幾何学的位相シフタ―を導入したファブリペロー干渉計についての研究も進めており、レーザーの周波数安定化など新しい分光技術への応用の可能性を見出しつつある。また、現在開発しているランダムモアレ型メタ表面に関して、その試作段階で作成したランダムメッシュ構造が単画素撮像に応用可能であることがわかってきた。これらはいずれも共同研究として外部機関とともに進めている。 以上のことから、当初予定していた部分ではやや遅れているものの、そのほかの部分で多くの進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
モアレ型メタ表面におけるベクトル場の変調手法について、ここまで、2つの周期構造の相対位置をずらすことだけでなく、メタ表面への光の入射角を変えることによっても同様の変調効果が得られることが、数値的に分かってきた。このことは、変調手法として微細な位置合わせが不要となることから実験系を非常にシンプルかつ高精度にできる可能性がある。本年度はそれらも含め実験的に検証する。 遅れていたモアレ型メタ表面の測定を順次行いテラヘルツ光の動的な制御を実現する。特にモアレ型メタ表面の構造について、これまで作成してきた、回転モアレ、拡大縮小モアレなどの周期パターンのモアレに加え、ランダムパターンに基づくランダムモアレメタ表面を開発し測定する。ランダムパターンには周期性がないことから、これまでのモアレ型メタ表面で発生した周期構造を排しよりシンプルな系で、現象の測定が可能になるものと考える。しかしランダムパターンを持つ金属構造の作成には、周期のような規則性がないことから設計データが巨大になることも予想される。これまで、その足掛かりとして実際のサイズよりも大きなランダムメッシュパターンの作成に成功している。2020年度それをスケールダウンし同一パターンのメッシュを2つ用意することでランダムモアレ型メタ表面を作成する。なお、試作段階のランダムメタルメッシュは、単画素撮像への応用も期待できることがわかってきた。この点に関しても応用例として研究を進める。 2020年度は、研究最終年度であることから得られた成果を積極的に発表する。ただ、学会や国際会議の開催については不透明な点も多く状況に応じて、論文、特許など成果発表の場は臨機応変に選択する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はレーザーの故障により結果的に実験を進めることができない期間があった。その間、当初見込んでいた実験に必要な消耗品の使用が抑えられた。また、光学素子などいくつかの消耗品については、光学系、実験系を工夫することで使用を控えることができた。出張旅費に関連して、新型コロナウイルスの影響により出張(春の応用物理学会など)が中止となったものもあった。これらのことから、結果的に次年度への繰越が生じた。 次年度は、遅れていた研究を短期間で効率的に行う必要がある。繰越分はそのための装置の高性能化、および論文発表の際、比較的掲載決定までの期間が短い雑誌へ選択的に投稿し、その出版費用へと充当するなど研究推進に役立てたい。
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